中大の監督時代から、選手が質問や意見をしやすい環境をつくるために、日ごろから近い距離でコミュニケーションを取るようにしてきた。だが当然ながら高校生と大学生では松永との年齢差も広がり、高校生からすれば「大人の意見に従わなければならない」と萎縮する。最初は練習中に指示を出しても「ハイ！」と威勢よく返事をするばかりで、具体的に問いかけると答えに窮して黙ってしまうことのほうが多かった。

　しかし監督として迎えた昇陽高（大阪）とのエキシビジョンマッチでは、松永が「着実に成長した」と感じるシーンがあった。

　1月の春高以来となるユニフォームを着て臨んだ試合だったこともあり、試合序盤は緊張が先立ち、相手の攻撃に屈し第1セットを先取された。特にサウスポーエースのライト側からの攻撃に苦戦し、第2セットの中盤までは自慢のディフェンス力がなかなか機能しなかった。

　なぜか。松永が冷静に分析すると、事前に確認した場所よりもレシーバーのポジションがだいぶ前に出ていた。

「少し前に来すぎやから、少し下がろうか」

　タイムアウト時にそう伝えると、選手の返答は「ハイ」ではなかった。

「確かにそうや。もうちょい下がろう」

　試合中に選手同士で会話し、自分たちで考えて動く。行動と同時に意識も変わり、個々のプレーに目を向けても「積極的にチャレンジする姿勢が随所で見られた」と松永は言う。

　たとえば206cmと恵まれた体躯で春高でも注目を集めたミドルブロッカーの麻野堅斗は、左利きを生かし、セッターの後ろからのC、Dクイックやライトに開いてのスパイクを次々と決める。加えて、セッターの前へ移動しながら打つBクイックなど、多彩な攻撃の質も上がり、バックアタックに入るシーンも見られた。麻野自身も「中学の頃は（左利きの自分が）Bクイックを打つという発想自体なかったけれど、理生さんからやってみたら面白いんじゃないか、と言われ、実際やってみたら面白いし自分の幅も広がった」と嬉しそうに、手ごたえを示した。

　変化したのはアタッカーだけでなく攻撃陣を操るセッターの當麻理人も同じ。「ラリー中は速く出したり、サイドアウトは1回下で間をつくったり（攻撃に）メリハリをつける。理生さんから『理人が主導権を持ってスパイカーを動かせばいい』と言われて、新しい発想でゲームができるようになった」と自信をのぞかせる。

　着実に見える成長の兆しに、松永も目を細める。

「春高で、自分たちがやりたいバレーができないまま負けた悔しさ、何もできなかった悔しさが力になって、練習でも新しいことにどんどんチャレンジするようになりました。去年は何度も同じようなことを指摘したり、時に叱ったこともありましたが、今は説明すればすぐ理解してやってみる。すごいな、と思うし、こちらも頑張らなあかん、と思わされますね（笑）」

試合後、選手たちと記念撮影する松永監督　©︎Yuko Tanaka

教員免許を取得、春からは体育教諭に

　昨年度までは、バレーボール部のコーチという肩書だけで教員ではなかった。だが豊田総監督の「バレーボール部だけでなく、一般の生徒たちを知ることも大切」という教えに倣い、2年かけて通信課程の授業と試験を経て、教員免許を取得。この春からは体育教諭として授業も受け持つ。

　将来を見据えた育成ももちろんだが、私立高校の東山高の監督としては当然ながら結果も求められる。だがそれも、松永にとっては自身の“これから”につながる挑戦でもあるはずだ。

「僕もいつか、オリンピックを目指す日本代表のスタッフとして戦いたい。その夢は変わらずあります。高校生のモチベーションになるようなきっかけを与えることはもちろん大事ですが、日本のバレーボールがもっと強くなるために大切なこと、必要なことが高校バレーボール界にあると思います。東山高として結果を残すことは当然のこととして、これからにつながることもどんどんやってみる。積極的にチャレンジしていきたいです」

　Vリーグ、大学、コーチ、さまざまな経験を武器に、次は監督として。美しく咲き誇る桜と共に、新たな春を迎えようとしている。

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