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“奥川恭伸の恩師”退任に、選手の涙が止まらなかった理由…「最初はヘラヘラしてると思ったけど」”必笑”に導かれた星稜・林監督(46)の幸せな野球人生
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/03/29 17:04
ベスト8進出も、国学院久我山に敗れた星稜。今大会を最後に勇退する林和成監督が残したモノとは
エラーで1点差に詰め寄られても動揺はない。土壇場まで面白い野球を展開した星稜は、5-4で天理との激戦を制した。「甲子園に出たら、まず2勝する」を掲げた星稜は2回戦で大垣日大にも勝利し、センバツでは最高成績(4度目)のベスト8に進出した。
久我山に敗戦…林監督「この景色を見るのも最後か」
国学院久我山との準々決勝でも、星稜は「面白いこと」を起こそうと奮闘した。
2-4で迎えた9回。攻撃を前に、林が円陣の中心でいつもの合言葉を選手に向けた。
「この展開、本当に面白くなってきたな。お前たちが逆転する姿が見たいぞ。ひっくり返してこい!」
劣勢でも選手たちに笑顔がある。無死一、二塁。相手にプレッシャーを与え、反撃の機運は確かにあった。
しかし、後続が断たれ、星稜は負けた。
「終わったな」
敗戦の瞬間、林は少し天を仰いだ。監督として21回戦った甲子園球場を眺めながら、「この景色を見るのも最後か」と独り言を放ち、夕暮れ近い聖地を目に焼き付けた。
「本当に幸せな野球人生だったな、と。卒業生もそうですが、今の生徒たちの頑張りもそう。力のない子たちが、なかなか練習できないなか頑張り、『ここまで伸びるんだな』と。可能性というか、生徒たちの秘めた力はすごいんだなと、改めて思いました」
監督を退任後は高校野球の第一線から離れると、試合後に林が明かした。
「いちファンとして、高校野球を遠いところから見ていたいなと思います」
選手コメントから伝わった「林先生の人望」
星稜伝統の精神を重んじながらも、柔軟な思考でチームを変えた。
そんな林だからこそ、選手たちは目を真っ赤に腫らしながら別れを惜しんだ。
「もっと大きくなって甲子園に戻ってこい」
監督からの願いを、キャプテンの佐々木が心に落とし込む。
思えば、試合後の取材での佐々木は、「林先……林監督」と言い淀む場面が多かった。グラウンドで野球をしている間の林は「監督」なのだと、言い聞かせるように。
佐々木たち選手にとっては、ユニフォームを着ていても先生なのである。林和成という教育者のぬくもりを、雄弁に物語っていた。
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