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ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
DeNAからメキシコ挑戦へ…乙坂智28歳が振り返る“戦力外通告を受けた日”「スパッと切ってくれたのも球団の愛情」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byShiro Miyake
posted2022/03/02 11:01
昨季に10年在籍した横浜DeNAベイスターズを退団し、今季からメキシカンリーグ・レッドデビルズでプレーする乙坂智
「脳内がフル回転しましたね。けど、これが横浜で10年間やってきたことの結果なので、しっかりと受け止めなければいけない。ふと思い立って、家の外に出て見たら、夕日に綺麗に照らされた富士山が見えたんです」
黄昏どきの心根に響く風景を目の当たりにし、この瞬間、乙坂のマインドは急激に切り替わった。
「瞬間、“どうしよう、可能性しかない。何でもできる”って思えたんですよね」
乙坂は笑みを見せ、つづける。
「小学生のころから夏休みも冬休みもなく一年中野球の生活をしてきて、これからはやってみたかったことができるって思ったんです。自分の人生、ものすごく選択肢に溢れてるなって」
戦力外という厳しい痛みはともなったものの、久しぶりの自由を手に入れた乙坂は、シーズンが終わると自分が生活をしてきた土地を知ろうと愛猫と一緒に日本一周の旅行に出かけた。愛着のある横浜から離れ、冷静に今後の自分の人生について考えを巡らせた。そして朗報は、海の向こうから届くことになる。
ドラフト秘話「ベイスターズ以外は行きたくない」の真実
乙坂は2011年のドラフト会議で5位指名されDeNAに入団した。出身の横浜高校時代は主将を任され甲子園では躍動感のあるプレーで注目された。小学生のときからベイスターズファン。よく乙坂について語られる逸話にドラフト時「ベイスターズ以外は行きたくない」とコメントしたとあるが、問いただすと乙坂は苦笑いをしてかぶりを振った。
「いやいや、ろくに野球が上手くないヤツがそんなこと言えるわけないじゃないですか。正しくはベイスターズ以外、声が掛からなかった、です(笑)。もちろんベイスターズに行けたらいいなって思いはありました」
3年目の2014年に一軍に初昇格をすると5月31日のロッテ戦で、日本人選手としては球団初となる初打席初本塁打というメモリアルアーチを放った。また2017年のクライマックスシリーズでは阪神と広島を相手に代打でプレーオフ記録の5打点を挙げ、19年ぶりとなる日本シリーズ進出に貢献した。ついにレギュラーを獲得することはできなかったが、要所要所で見せる勝負強いバッティングはとても魅力的で、ファンも多かった。また守備固めや代走など、縁の下でチームを支える存在でもあった。
この10年間を振り返り、プレーヤーとして一番印象に残っていることは何だろうか。
「やっぱり当時中日にいた松坂大輔さんですかね」
「やっぱりマウンドからホームベースまでの18.44メートルの空間というか、バッターボックスにいることが何ものにも代えがたかったし、生きているっていうか自由になれるんですよね。
印象に残っている対戦相手は、やっぱり当時中日にいた松坂大輔さんですかね。高校の先輩というのもありますけど、僕メジャーでやっていた投手と対戦するのがすごく好きだったんです。メジャー経験者は不思議とボールの重さが違うんですよ。他にも阪神のメッセンジャーやドリス、広島のジョンソンや黒田博樹さんとか、そういった素晴らしい投手たちと対戦できたのは僕の宝物ですね」