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ガーナで宣教師をしていたトンガの青年が日本ラグビーで覚醒中! “秘密兵器”オペティ・ヘルが悩む「代表ジャージー」への質問
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNobuhiko Otomo
posted2022/02/18 11:01
抜群の存在感を放つクボタスピアーズ船橋・東京ベイのPRオペティ・ヘル。右は日本代表で、同じトンガ生まれのヘルウヴェ。同じ姓だが親戚ではないという
オペティを貫くのは家族の存在だ。スピアーズのトライアウトを受けないかと勧めてくれたのは義兄のフィナウだ。
体を戻すのは大変だったが「家族を助けるためだと考えて頑張れました」。今も、トンガの両親には仕送りをしているという。
「小さい頃から家族のおかげでラグビーをやらせてもらえましたから」
特に母は、パンツやソックスなどウエア類を早起きして縫ってくれた。決して余裕があったわけではない家計の中からスパイクを手に入れてくれるなど、オペティのラグビーをサポートしてくれた。絶対的な存在だった。
「僕が好きなラグビーをするために両親が自分の時間を犠牲にしてサポートしてくれた。少しでも恩返しをしたい」
しかし、2019年のスピアーズ入りから2シーズンは公式戦出場ゼロ。やはり2年間の空白を埋めるのは容易な作業ではなかったのか。
「自分がよりよくなることにフォーカスしてハードワークしていました。自分がメンバーに入れていないということは自分がベストを出せていないということ。コーチが自分を向上させるためのメニューを与えてくれるので、それに従ってハードワークするだけでした」
公式戦出場ゼロと沈黙していた2年間。しかし、スピアーズのチーム内では、オペティの存在感は高まっていた。昨季までLO/FLでプレーし、今季からFW担当アシスタントコーチを務める今野達朗の証言。
「最初に来たときはまだ子どもっぽい印象で、体も締まっていなかったけど、スピードがすごかった。『2年もやってなかったのにこんなに速いのか』と驚きました。そこからどんどんスキルも体もレベルアップしていった。練習では全部のコンタクトに100%。コンタクト練習のときは正面に立ってほしくないと思ってました(笑)。ホントは去年も出したかったけどケガをしてしまって出られなかった。我々の間ではずっと『秘密兵器』と呼んでいたんですよ」
災害に見舞われた故郷トンガ、家族への思い
そうして迎えた、3年目のブレイク。それは奇しくも、故郷トンガが大きな災害に見舞われたタイミングだった。
火山噴火の1週間後に行われた神戸戦で、スピアーズはトンガのナショナルカラーでもある赤いソックスを着用した。スタジアムではたくさんのファンがトンガ国旗を掲げてオペティやトゥパらトンガ出身の選手たちを迎えた。
「グラウンドに入ったとき、スタンドにたくさんあるトンガの旗を見て感激して、涙をこらえるのが大変でした。トンガのような小さな国のことを、たくさんの人が気に掛けてくれている。日本の文化は本当に素晴らしいと思った。たくさんのサポートに感謝しています」
それはきっと、今シーズンの爆発的なパフォーマンスに繋がっている。
「今はチャンスをもらえていることに感謝しています。チームの助力にも感謝しているし、コーチの信頼も勝ち取れていると思う。家族にもきっと誇りに思ってもらえる。プレーで自信があるのはディフェンス。タックルで相手をスマッシュするのが得意だし、好きです。あとはプロップとしての仕事、スクラムとラインアウトの精度を上げたい。周りの選手をサポートできるようもっともっとハードワークしていきたい」