フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
祖母は今も北京在住、“思い出の動物園”も会場の近くに…ネイサン・チェンがSP圧巻の世界新で高く拳を突き上げたワケ
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2022/02/09 17:04
2月8日の男子シングルSPにて、世界新を記録し首位に立ったネイサン・チェン
もう平昌のトラウマは、とっくに乗り越えたのだろう。そう思っていた矢先、2021年10月、シーズン初戦だったスケートアメリカで、チェンは久しぶりにSPで大きなミスをして4位スタートになった。
「オリンピックシーズンのプレッシャーは、もちろんあります。全く違うゲームですから」。ミックスゾーンで早口でそう語ったチェンの表情には、過去4年間で築いてきた余裕は見えなかった。
それでもその翌週のスケートカナダでは優勝し、1月の全米選手権でも6度目のタイトルを手にして調子を上げてきた。
演技直前、チェンの胸は緊張で大きく上下していた
元全日本チャンピオンの村主章枝が以前に、「トリノで氷の魔法にかけられた。この魔法はバンクーバーでしか解けない」という印象深い明言を残したことがある。
チェンにとっては、「平昌で氷の魔法をかけられた。この魔法は北京でしか解けない」だったのではないだろうか。
どれほどGP大会で勝ち続けても、何度世界選手権で金メダルを手にしても、彼にとって平昌の雪辱を果たすことができるのは、やはり北京の舞台でしかなかったのだろう。
2月4日の団体戦の男子SPで、演技開始の直前のチェンを映像カメラがアップにすると、激しい呼吸を抑えようとして胸が大きく上下しているのが見てとれた。
大舞台を何度も体験してきたチェンでも、これほど緊張するのはやはり心の底に4年前の悔しい思いが横たわっていたために違いない。
団体戦で無事にノーミスのSPを滑り切った後、「もちろん、自分にはできるという自信になりました。あとはこれを再び繰り返すことです」とコメントした。