フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
羽生結弦「逆境は嫌いじゃない」 SPまさかの8位…フリーに仕込んだ“2つの最終兵器”と大逆転に向けたシナリオとは?
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2022/02/09 17:05
2月8日の男子シングルSPにて、まさかのジャンプミスから8位となった羽生結弦
まず全日本選手権のときは、足を組んだまま降りてくるため左足トウが先に着氷し、すぐに右足に乗り換えて着氷姿勢をとる、というものだった。演技後に羽生は「まだ怖くて左足をついてしまう」と語っていた。
しかし北京でみせた4回転アクセルは、右足で着氷しようとしていた。降りてくる最後に回転をほどき、右足で着氷すると、バランスを保つために左足をついて両足着氷になる。同じ両足着氷でも、左が先についてしまうのと、右足から降りられているのでは、まったく違う。「右足で降りる」という段階へ、大きく前進していた。
8本トライした4回転アクセルのうち、回転したのは5本。そのうち2本は右足が先行して降りているように見えた。回転をほどいて右足で降りる準備をできるということは、つまり、回転が足りつつあることを意味する。
ただし、今はまだ全力で回し切っていない。下手に本気で回すと、着地で捻挫する可能性もあるのだろう。練習では「右足で降りる」という段階までを繰り返しておいて、本番は全力で締めれば認定されるところまで回る、という計画と自信を感じさせた。
「逆境は嫌いじゃない」
そして何より、大逆転にむけて必要なのは、情熱。もちろん羽生にその魂があるのは、言うまでも無い。
2012年、ニースの世界選手権で羽生は7位発進。その夜、自問自答した。東日本大震災後に「勇気を与える立場」だと思いこんでいた自分は、「ファンから力をもらって演技してきた」ことに気づく。応援を受け止め、気迫をこめて臨んだフリーの「ロミオとジュリエット」で2位に追い上げると、17歳にして世界選手権の銅メダリストになった。
さらに2017年のヘルシンキ世界選手権では、やはりサルコウのミスで5位発進。しかしフリーは4回転4本を含むパーフェクトの演技で世界最高点を更新し、大逆転での優勝を決めた。
羽生はかつてこう語っていた。
「逆境は嫌いじゃない。乗りこえた先にある景色は絶対にいいはずだと信じている」
2月10日のフリー、羽生は新たな景色を求め、アクセルを跳ぶ。