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「彼には天から与えられた才能と情熱がある」ショーン・ホワイトが語っていた“あなたにとって平野歩夢とはどんな存在ですか?”
text by
徳原海Kai Tokuhara
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2022/02/09 11:01
4年前の平昌五輪。歴史に残る名勝負を繰り広げたショーン・ホワイトと平野歩夢
「(4位に終わった)ソチでは自分に失望した。振り返ってみると当時の僕にはタフさが足りなかったし、今回のように勝つために自分のすべてを費やすことができていなかったね。大会後にはプライベートでも辛いことが重なって家から出なくなるほど落ち込んだ時期もあった。でも、その経験があったからまた心に火をつけることができた。理学療法士をつけてもう一度体を作り直すなど、この4年、五輪に戻るためにハードワークをしてきたよ」
2つ目は怪我。ソチ後の苦悩の日々を経て、ショーンは2016年、'17年のUSオープンを連覇し、完全復活。しかし平昌へ視界良好と思われた昨年の10月、ニュージーランドでのトレーニング中に顔面を62針縫う重傷を負ってしまう。平昌の決勝3本目で見せたキャブダブルコーク1440を練習している最中の出来事だった。顔にはその傷跡が今も生々しく残る。
「もう、自分の顔を毎朝鏡で見るたびにクラッシュした瞬間がフラッシュバックするようだったよ。その後のいくつかの大会は恐怖を克服するための戦いだったけれど、平昌では恐れと躊躇と疑念のすべてを心から取り除くことができたんだ」
そして3つ目が平野の存在である。彼とのマッチアップこそが、自分の滑りをさらなる高みへと導いた最大の要因であることをショーン自身も隠さない。
「アユムの怪我(昨年のUSオープンで肝臓と左膝内側側副じん帯を損傷)は僕よりもひどかった。そんな彼の2本目を見て、『勝つには彼に匹敵する技、つまり1440を連続で決めるしかない』と覚悟したよ。これまで大会で成功させたことのないルーティンに挑まなければならない厳しい状況だったけれど、自分を信じて臨んだ」
五輪決勝の大一番で自分の限界を超える大技をとびきりスタイリッシュに決めきる勝負強さ、アジャスト能力はさすがというほかない。大きなガッツポーズで会場に一体感を生み出したこともジャッジに影響しただろうし、高得点が出やすい3本目の最後に滑ることを見据えた全体のプランニングも生きた。間違いなく、平野の滑りも金メダルに値するものだった。ただ、ショーンの勝利への執念がわずかに上回った。
ショーンは平野歩夢をどう見ているのか?
ショーンは平昌で激闘をともにした平野について、実のところどう捉えているのか。あまり語られることのなかった彼の“平野歩夢像”についても聞くことができた。