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渡部暁斗33歳、悲願の“個人で金メダル”へ…レジェンド荻原健司から受け取ったバトン《複合新旧エース》の深い結びつき
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byJMPA
posted2022/02/14 17:00
北京五輪スキーノルディック複合で3大会連続のメダルを狙う渡部暁斗。ノーマルヒルでは7位に終わったが、15日のラージルヒルで悲願の金メダルを目指す
雪国の長野県白馬村に生まれ育った渡部暁斗は「キング・オブ・スキー」と呼ばれる有名人の存在は知っていた。しかし小学生の頃はさしたる興味もなく、長野五輪では荻原の出ていた複合を観戦したはずなのに、友達と土手で雪遊びをしていたことしか記憶に残っていない。
「意識し始めたのは高校で複合に専念するようになってから。競技のことをもっと知ろうと思った時に荻原健司という名前があって、そこは避けて通れなかった」
ただし、この時点でも本当の意味で荻原の偉大さに気づいていたわけではない。
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「社会人になって、W杯でも優勝できるようになってくると、やっと健司さんの功績を実感した。こんなに勝っているのかと。近づくほどすごさがはっきりしてきた」
06年トリノに高校2年生で初出場し、3度目の五輪となった14年ソチの個人ノーマルヒルで銀メダルに輝いた。シーズン開幕からW杯5勝を挙げて臨んだ18年平昌五輪は、個人ノーマルヒルのスプリント勝負に屈して再び銀。ラージヒルでも前半飛躍の首位を保てずに5位に終わった。金メダルにはいまだ届いていない。
武道や格闘技にもヒントを求めた渡部
荻原の時代からルール改正はさらに進み、現在ジャンプは1本のみで、距離に対する得点の配分はますます低くなった。それでも新しい時代に生きてきた渡部には「今のルールは完璧」と抵抗感はない。
「総合成績でも飛躍と距離のバランスの取れた選手が上位にいる。どちらか一方ではトップに届かない。世界的に普及していくためにも改正は必要だったと思う」
その中で生き残るために、得意のジャンプだけでなく、走力を年々積み上げてきた。成長のヒントを求めて取り組んだのはヨガやトレイルラン、マウンテンバイク、クライミングにスタンドアップパドルまで幅広い。特定のコーチやトレーナー、理論に偏ることなく、さまざまな要素を自分で「複合」することをモットーに、武道や格闘技にまで関心を抱いている。