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羽生結弦「痛み止めを飲まない状態では、到底ジャンプは跳べない…」平昌五輪での“伝説の復活劇”の裏に隠された“壮絶な経験”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/02/09 06:00
2018年、伝説となった平昌五輪の羽生結弦の演技
壁が大きければ大きいほど、彼は強くなってきた
「もう少しでできそうな感じがするんです」
完成への手ごたえを感じていた。だが、その夢もまた、右足首の状態が左右する。
「治療の期間がほしいとは思いますが、どれくらい長引くのか……」
払った代償が大きかったからこそ、平昌の舞台で世界中を感動させる演技を見せられた。あまりに壮絶な、あまりに美しい、神話の世界のような7分20秒であった。
「きっとたぶん、今幸せだから、またすぐ不幸がたくさん来て、また辛い時期が来るんだろうと思います」
微笑を浮かべながら、軽い調子で語る言葉は痛烈に胸に響いた。だが、そこで言葉を終わらせなかった。
「ただ、それは次の幸せのためのステップだと思います」
忘れてはならない。乗り越えるべき壁が大きければ大きいほど、彼は強くなってきたことを。
「自分が楽しめる、やりたいと思っているプログラムをやりたい」
そして心底楽しそうに、羽生は語る。
「獲るものは獲ったし、やるべきこともやった。あとはちっちゃかった頃に描いていた自分の目標、夢じゃなくて目標を叶えてあげるだけ」
2月22日、エキシビションの練習後の取材では、来シーズンの目標をこう明かした。
「自分が楽しめる、やりたいと思っているプログラムをやりたい。それを観て、すばらしいなと思っていただけるならすばらしいこと。自分は自分なんだというところに、今はいます」
「スケート以外でやりたいことは?」という質問に、「リンク外でやるとしたら、スケートの(ための)トレーニングですかね」と笑顔で答えた。
急ぐことはない。胸に秘めた目標を叶えるために、羽生結弦はまた歩き始める。