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羽生結弦「痛み止めを飲まない状態では、到底ジャンプは跳べない…」平昌五輪での“伝説の復活劇”の裏に隠された“壮絶な経験”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/02/09 06:00
2018年、伝説となった平昌五輪の羽生結弦の演技
高校生の羽生「すべてにおいて優れたスケーターが理想像です」
「(ソチ五輪金メダルのあと)すぐに世界選手権がありました。フリーでなんとか挽回できて優勝できた記憶があります。その試合から、中国(での6分間練習中の衝突)があって、手術もあって、怪我、病気と、そういったものにずっと苦しみながらこの4年間を過ごしてきました。それは思い描いていなかったですね。思い描けなかった。でも、何もなく、NHK杯で怪我をするまで順風満帆で来られたとしたら、オリンピックでは金メダルを獲れていない。いろいろな経験があったからこそ勉強ができたし、いろいろ学べたし、それを生かせたのが今回の復帰だと思っています」
数々の逆境を乗り越えてきた経験が、今回の快挙につながった。何よりも、そうした逆境に打ちのめされることなく、這い上がってきた心の強さには感嘆させられる。
「すべてにおいて優れたスケーターが理想像です」
高校生のときにこう語った。
「自分を超え続けたい」
今年1月には、そうコメントしている。
それらをただの言葉に終わらせず、真摯な道のりをひたすらに歩んできたからこそ、今日の羽生が存在する。
「モチベーションは、4回転アクセルを跳ぶことだけ」
どうしても叶えたいと願っていたオリンピックの連覇を果たした今、「獲るものは獲ったし、やることはやりました」と、気持ちは満ち足りている。
それでも、現役続行の意志を明らかにする。まだフィギュアスケートの世界でやり残していることがあるからだ。それは「4回転アクセルを跳びたい」という、かねてから抱いていた目標だ。
小学生の頃、指導を受けていた都築章一郎コーチに言われた。
「アクセルは王様のジャンプだ」
その言葉は胸に刻まれ、大切にしまわれた。以来、アクセルジャンプの習得に打ち込み、やがてトリプルアクセルが何物にもかえがたい大きな武器となった。『SEIMEI』で見せた、大きなステップからの入り、着氷後の滑らかなつなぎ――まさに世界最高のレベルへと磨き上げてきた。
そんな大切なジャンプだからこそ、もっと進化させたいと思う。
「スケートをやめたいという気持ちはないです。ただ、モチベーションは、4回転アクセルを跳ぶことだけです」
昨夏、帰国した際に、都築コーチに打ち明けた。