野球のぼせもんBACK NUMBER
いてまえ打線の7番・川口憲史、選手時代は“お酒を飲んでた”時間に起床→パン作りの今…01年“近鉄最後の優勝”は「今でもふと思い出す」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKotaro Tajiri
posted2022/01/25 11:02
近鉄最後のV戦士で、現在は故郷の福岡で人気ベーカリーを営む川口憲史さん
そしてペナント大詰めの01年9月26日、あの伝説が生まれた。
「代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームラン」の舞台裏
大阪ドーム(現・京セラドーム)でのオリックス戦。川口さんはこの日も「7番DH」でスタメン出場していた。1-4と劣勢の7回裏には川口さんがバックスクリーンへ追撃のソロ本塁打を放っている。しかし、9回にオリックスに1点を追加されて2-5と再び引き離された。
3点差を追いかける9回裏。とんでもないドラマはそこからだった。
先頭の吉岡がレフト前ヒットで出塁。ここで打席に立った川口さんは、前打席の勢いそのままに一塁線を破る火の出るようなライナーを放った。二塁打となり無死二、三塁。続く代打・益田大介は四球を選び、3点ビハインドの状況で無死満塁となった。
近鉄の梨田昌孝監督は9番捕手の古久保健二に代打・北川博敏を送った。
二塁ランナーだった川口さん。“その瞬間”が訪れるまでは、意外なほど冷静だったという。
「いつものように相手の守備位置を確認して、ライナーは勘弁してくださいって祈ってました(笑)。あと、あの時の近鉄ベンチ。ノリ(中村紀)さんも礒部さんもみんな、腰をドカッと下ろして見てたんです。大体は全員が身を乗り出して見守ったりするでしょ。でも、僕らは決して仲良し集団ではなかった。でも、同じ目標に向かって戦っていた。だから、あの時の近鉄は強かったんだと思います」
そして、“それ”は突然やってきた。北川が4球目をジャストミート。その打球は二塁走者・川口さんのちょうど真上をものすごい勢いで飛んでいった。
左中間席に飛び込む、代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームラン。
打球を見上げたところまでは憶えている。だけど、そこから先は興奮しすぎてすっ飛んでいる。「ちゃんと三塁ベース踏んだんかなって、今でもふと思い出すときがあるんです」と川口さんはまた優しい笑顔を浮かべて懐かしんだ。