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いてまえ打線の7番・川口憲史、選手時代は“お酒を飲んでた”時間に起床→パン作りの今…01年“近鉄最後の優勝”は「今でもふと思い出す」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKotaro Tajiri
posted2022/01/25 11:02
近鉄最後のV戦士で、現在は故郷の福岡で人気ベーカリーを営む川口憲史さん
その後プレーした楽天では目立った活躍はできなかったが、チーム創設初年度の開幕3番打者を務め、楽天球団史上初となる打点をマークした。現役通算成績は976試合出場、打率.263、69本塁打、314打点だった。
「僕のことなんて知らずにパンを買いに来てくれます」
引退後にパン屋を開業するのは、じつは現役中から決めていたことだった。
「嫁さんが僕との結婚前にパン屋とケーキ屋で働いていたことがあったんです。自宅でもよく作ってくれて、それが美味しくて気に入っていた。『いつか引退したらパン屋かケーキ屋やるからヨロシク』ってずっと話していたんです。ケーキよりもパンの方が日常に根づいているから毎日食べてもらえると思い、パン屋の方を選びました」
妻とは中学時代からの付き合い。互いの地元である福岡に戻って開業したが、福岡市内とはいえお世辞にも便の良い場所とは言えない。
「2人とも出身は八女市というところで田舎なんです。楽天でプレーしていた時も、チームのみんなが仙台市内に住む中、僕だけ名取市でしたから。静かなところが気に入っているし、僕はホークスでプレーしたこともないから、お客さんのほとんどが僕のことなんて知らずにパンを目当てに買いに来てくれます。それがいいんです」
店内を見回しても野球関連のグッズや自身の着用していたユニフォームなどは見当たらない。
「唯一飾っているのは、ノリさんが2000本安打を達成した時の記念バットだけ。一番お世話になった先輩だから」
起床は日の出前。「選手時代はそれくらいまで飲んでた(笑)」
朝はとにかく早い。起床は3、4時。「選手時代はそれくらいまで(お酒を)飲んでたのに(笑)」。パン作りは妻と一緒に行う。川口さんは生地作りとオーブンの担当だ。
「気温や湿度によって、小麦粉や水などの分量を変えています。難しいけど、それが奥深くて楽しいんです」
パンの成型は相当な技術が必要なため「僕は触らせてもらえない」と妻が専任して行っているが、開業丸10年の節目を迎える今年は「嫁さんから挑戦させてもらえるかも」と嬉しそうに微笑んだ。
朝10時の開店になると手塩にかけた数々の商品がずらり並ぶ。自慢の“4番打者”は店名にもあるベーグルだ。ベーグルだけでも20種類ほどあり、「チョコ」や「かぼちゃあん」「クランベリーチーズ」のスイーツ系から、「めんたいチーズ」「たかなとごま」など食べ応えのあるものまで豊富に取り揃えている。食感はベーグルにしてはもっちり、しっとりとしていて、「それが特徴の一つです」と川口さんも胸を張る。加えて、約10種類の菓子パンや食パンも用意されているが、人気商品になると午前中に売り切れてしまうことも少なくない。