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[一子相伝の秘技]激闘の舞台は匠の一太刀で
posted2022/01/22 07:01
text by

熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Takuya Sugiyama
名局の舞台となる将棋盤。それは盤師と呼ばれる、匠の真剣勝負から生まれる。
1916年創業、四代続く埼玉県行田市の『吉田碁盤店』は、タイトル戦に何度も盤を提供した名工。「吉田流太刀盛り」によって広く知られる。
漆によって9×9のマス目を引く工程は「目盛り」と呼ばれ、日本刀で目盛りを行なう吉田流太刀盛りは二代目以来一子相伝、口伝によって受け継がれてきた。
三代目吉田寅義さんが修業時代を語る。
「18歳のとき、親子の縁を切る覚悟で父に弟子入りしましたが、自分が正しいと思ってやったことも師匠がダメだといえばダメ。親子でなければ耐えられないほど修業は厳しく、風呂で泣いてばかりいたものです」
一子相伝を貫くのは、実子でなければ伝えられないほど太刀盛りが奥深いからだ。
「樹齢数百年の榧の木に新たな生命を吹き込む太刀盛りには、生半可な気持ちで向き合うことはできません。ときには緊張で腕が震えることもある。また漆は非常に繊細で、ちょっとした空気の動きで状態が変わる。初代が完成した漆の技法は文字に残すと流出する恐れがあるので、師匠にくっついて、ひたすらその仕事を観察し、加えて寝食をともにすることでしか会得できない。とても通いの修業で身につけられるようなものではないので、我が子に伝えるしかないのです」
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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