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〈日本勢にとって最大のライバル〉フィギュア全米選手権男子はトップ4が大接戦…17歳の原石が代表落選の裏に“団体メダルへの思惑”か
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/01/13 17:03
アメリカ代表に決定した、左からヴィンセント・ジョウ、ネイサン・チェン、ジェイソン・ブラウン
“トップ4”の代表をかけた緊張感ただよう争い
最終グループ、トップ4人の中で最初に滑ったのはジェイソン・ブラウンだった。デイビッド・ウイルソン振付「シンドラーのリスト」で冒頭の4サルコウで転倒するも、残りをノーミスで滑り切った。彼の上半身の筋肉のつき方は完全にダンサーの体形で、全身を大きく使う芸術的な振付は彼でないとこなせない内容だ。最後に体を折って顔を伏せた状態で演技を終えると、むせび泣くように肩が震えた。
「ここまで来るのは大変でした。(雪でフライトがキャンセルになった)過去72時間の話ではなくて、この4年間。特にここ2年は、自分のスケートに集中して、できる限りのことをしてきた。滑り終わった時に、全ての緊張がとけて感情がこみ上げてきたんです」。演技後そう語ったブラウンは、188.94、総合289.78を手にした。
緊張でミスが続出したジョウ
ヴィンセント・ジョウは「グリーン・デスティニー」で、冒頭の4ルッツでステップアウト。続く4フリップと4サルコウはきまったが、4トウループは4分の1回転不足、2度目の4ルッツも大きくステップアウトし、3アクセルで転倒という本人のベストとは程遠い演技だった。これは表彰台から落ちるのではと予想したが、フリー177.38、総合290.16で暫定1位の数字が出ると、ナッシュビルの観客たちもちょっとどう反応してよいのか、戸惑っているのがよく分かった。米国の連盟は、あくまでジョウをバックアップする、というメッセージなのだろう。「正直に言うと、身体が緊張してガチガチで動かなかったんです」と本人は会見で告白した。
「宝石の原石のよう」17歳マリニンの快進撃
次は17歳のイリヤ・マリニンだった。高い4ルッツ、4トウループ、3アクセル、4サルコウと、次々とジャンプをきめていく。後半の4トウループ+1オイラー+3サルコウもきれいにきまり、これはジョウの上をいくと確信した。音楽表現と振付などはまだこれからながら、スケーティングの伸びも良く、まだ磨かれていない宝石の原石のようだ。フリー199.02、総合302.48の結果が出ると、横にいたコーチで父親であるスコルニアコフは信じられない、というように頭に両手をあてた。現在、ラファエル・アルトゥニアンに師事しているというマリニン。これからは鍵山優真など、日本の若い世代の強力なライバルになるだろう。
「2度転倒」も6度目の優勝を果たしたチェン
いよいよ最終滑走のチェンが登場。「ロケットマン」が始まった。冒頭の4フリップ+3トウループがきれいにきまった。だが次の4フリップで転倒。それでも素早く持ち直し、4サルコウ、4ルッツ、4トウループ+1オイラー+3フリップを成功させたのはさすがの貫録だった。
ところが盛り上がっている最後のコレオシークエンスの最中に、予想もしていないところで転倒し、本人もちょっと苦笑した。それでも212.62、総合328.01という高い点が出た。2度の大きなミスは本来は演技構成点にも反映されるはずだが、ジャッジ9人中2人は、全くミスがなかったかのような評価を出した。これが国際大会だったなら、ISUジャッジたちはこの点数は絶対に出さないだろう。それでもチェンが優勝に相応しい演技だったことに変わりはなく、6連覇を果たした。