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〈日本勢にとって最大のライバル〉フィギュア全米選手権男子はトップ4が大接戦…17歳の原石が代表落選の裏に“団体メダルへの思惑”か
posted2022/01/13 17:03
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Getty Images
ナッシュビルのブリヂストンアリーナで開催されていた全米選手権は、1月9日の男子フリーで締めくくられた。北京オリンピックの代表選考会も兼ねていたこの大会。8日のSPでは、トップ4人は素晴らしい滑りを見せた。
ネイサン・チェンは事前に宣言したように、2年前のプログラム「ラ・ボエーム」に戻してきた。冒頭の4フリップ、3アクセル、後半の4ルッツ+3トウループもきれいに成功させて115.39でトップに立った。
ヴィンセント・ジョウは、ゴッホの映画「ヴィンセント」のサントラで、4ルッツ+3トウループ、4サルコウ(4分の1不足)、3アクセルを降り、最後まで気持ちのこもったドラマチックな滑りを見せ112.78を手にした。
サプライズで3位に来たのは、17歳のイリヤ・マリニンだった。母親はウズベキスタン代表として四大陸初代女子チャンピオンになったタチアナ・マリニナ。父は元ウズベキスタンチャンピオンの、ロマン・スコルニアコフという、スケート一家に育ったサラブレッドだ。今季はジュニアGPで2連勝して、大阪のファイナルに行く予定だった選手である。SP「ビリージーン」では4ルッツ、4+3トウループ、3アクセルときれいに成功させて、103.46のスコアで会場を沸かせた。
ジェイソン・ブラウンはジャズナンバーの「シナーマン」で、3フリップ、3アクセル、3ルッツ+3トウループを成功させ、コンポーネンツの音楽の解釈では10点満点を獲得。全選手の中で最高のコンポーネンツを得て、100.84で4位スタートになった。
ドミトリエフ・ジュニアの4アクセル挑戦
翌日のフリーは、また様々なドラマが待っていた。
最初に特筆しておきたいのは、SP12位だったアルトゥール・ドミトリエフ・ジュニアが、フリーで4アクセルに挑んだことである。着氷でステップアウトして回転不足はついたものの、ダウングレードにはならなかった。
29歳になったドミトリエフ・ジュニアは、 マリニンと同じく二世スケーターだ。父親はアルベールビルと長野の2度のオリンピックのペアで金メダルを手にしたアルトゥール・ドミトリエフ。その彼が初めて試合で4アクセルに挑んだのは、2018年のロステレコム杯でのことだった。この時は前向きに降りて転倒。成功には程遠く、ダウングレードになり、トップ選手でもなかったドミトリエフの挑戦は特に話題にもならなかった。
今回は当時の挑戦から比べて格段の進歩である。ここでの着氷は過去でもっとも成功に近かったかと聞くと、彼はこう答えた。
「4~5年前に練習では降りたことがあります。でも試合でその状態を維持することはできませんでした」
その後身体が限界を感じ、3年ほど競技を休んだという。その間にロシアからアメリカに国籍を変えて、理学療法士などの助けを借りて昨年の9月からまた本格的なトレーニングに戻った。4アクセルの練習を再開したのは、ここ1カ月ほどだという。羽生結弦の全日本選手権の4アクセルを見たかと問うと、「はい、見ました。グッドジョブ!」と答えた。