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「天の与えてくれた期待を裏切った」グレイシー・ゴールドが“摂食障害”に苦しんだ本当の理由…全米までの“奇跡のような”復帰の旅
posted2022/01/19 17:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Getty Images
「かなり緊張していましたけれど、ほっとして感情がこみ上げてきました」
2022年全米選手権の女子SP、ノーミスで滑り切ったグレイシー・ゴールドは演技後にミックスゾーンに来てそう口を開いた。
「26歳にもなって、また全米選手権のSPで失敗するためにトレーニングしてきたんじゃない、と思ったんです」
2017年から2018年にかけて、摂食障害と鬱に悩まされて一時は引きこもりになったゴールド。彼女が本格的な競技復帰を目指してから、今回で3度目の全米選手権だ。
「98%くらい確実なんですけど、SPで3+3を決めたのは2014年以来のことだと思います」
2014年は全米選手権で初優勝を決め、ソチオリンピックの代表に選ばれた。団体戦で銅メダルを手にし、個人戦では4位と惜しいところで表彰台を逃した。次のチャンピオンは、ゴールドだろう。多くの関係者たちはそう思っていた。
期待されたゴールドが摂食障害を発病するまで
当時18歳だったゴールドの未来は明るく見えた。特別な才能と抜きん出た美貌の両方に恵まれ、スケーティング技術も、表現力も十分にある。しかも苗字は「ゴールド」。未来のオリンピックチャンピオンになれば完璧なストーリーになるだろうと、米国のメディアからも多くの期待が寄せられた。
その彼女に異変が現れたのは、2016年スケートアメリカでのことだった。5位に終わった後、ミックスゾーンでゴールドは「フィギュアスケートは細身の身体が要求されるスポーツ。今の私にはそれがないんです」と口にしたのだ。
筆者もその場に居合わせていたが、相変わらずギリシャ神話に出てくるニンフのような美貌のゴールドからそのような言葉が出たことに、違和感をおぼえた。この時すでに、摂食障害を発病していたのだろう。
その後ゴールドは、急激に調子を崩していった。2017年1月、全米選手権で6位に終わった後で、コーチのフランク・キャロルが記者たちの前でゴールドとの師弟関係を終える、と口にした。二人の間でどのようなことがあったのかは、知る由もない。だが自分に知らされる前にキャロルが記者たちに発表したことが、ゴールドをさらに精神的に追い詰めたことは想像に難くない。この後、カリフォルニアを引き上げて実家のあるシカゴに戻ったゴールドは、鬱と引きこもり、摂食障害に陥ったのだという。