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世界的ピアニスト反田恭平27歳、“同学年”羽生結弦の美しさを語る「同じ年なのでちょっと悔しいな」「羽生選手はショパンを理解している」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2022/01/12 06:00
『バラード第1番』を演じる羽生。過去4シーズン、同プログラムで数々の名勝負・名演技を見せてきた
髪は後ろで一つにまとめ“サムライ”と覚えてもらえるようヘアスタイルにもこだわった。
ホールで響く音が出せるような体作りも行った。
留学中に体格の良いロシア人学生とのピアノの響きの違いに驚き、ジムに通った。筋トレで体幹を鍛え始めてからは、音量が大きくなったと言われることも。さらに理想の音を求めて体を追い込んだこともあった。昔から「疑問が多い子どもだった」というが、マッチョになったらどんな音になるのか、自分で体感しないと気がすまなかったという。
「ピアニストがあまりやらないようなバーベルを上げるトレーニングを行ったり、スクワットも鬼のように繰り返しました。でも、上腕二頭筋、三頭筋と背筋、胸筋を鍛えすぎて、音が硬い感じになってしまって、これはちょっとまずいなと。おじいちゃんやおばあちゃんの手はふくよかで柔らかいですが、彼らのような脂肪分や筋肉が落ちかけたところの方が、音楽がダイレクトに伝わるんです。要は、深くて温かい音がするんですね。それがショパンコンクールで僕に必要で、腕の筋肉も備わっていたのでトレーニングはそこまでにして」
羽生結弦で「見たい」と思う楽曲は?
また、コンクールに挑むにあたり、何日間もかけて前回、前々回の800名分のリストアップをし、誰が何を弾いたのか、1位の人は何を弾いたのか、4000曲分程度の正の字を書いて分析した。
「もしショパンが生きていたら、なかなか友達になりにくいタイプの人間だったでしょうね。ただ、ショパンは仲良くなれたら本当に家族や恋人のように扱ってくれる。でも、僕はそこまでいく自信がなかったので、歩み寄るしかなかった。人生において1度は1人の作曲家と真摯に向き合って、共に過ごすというわけじゃないですけど、ずっと演奏する生活を送ることで1つの境地、世界が見えるんじゃないかなと思ったんです。それが音楽家としてもすごく勉強になるなと考えました」
ピアノとフィギュアスケート、活躍する舞台は異なるが、羽生と反田、2人が各々の世界で追求し続ける姿が重なる。
今季、羽生はSPで『序奏とロンド・カプリチオーソ』を演じている。
「かなり悩んで、羽生結弦っぽい表現、羽生結弦にしかできない表現ができるショートプログラムがどんなものがあるかなと思って、ずっと探していました」(羽生)と、この曲を選んだ。2019-2020シーズン以来となるピアノ演奏による曲に周囲も大きな期待を寄せる。
ちなみにピアニストの反田ならどんな曲を見たいと思うのだろうか?
「エドヴァルド・グリーグとか……、あとはフランスの音楽、モーリス・ラヴェルなど印象派の音楽も似合うんじゃないかな。ただ、“ここ”という盛り上がりに少し欠けるのでフィギュアスケートのプログラムで使用するには少し難しいのかもしれません。個人的にはモデスト・ムソルグスキーの『展覧会の絵』とかも見てみたいですね」
Number1043号に掲載の「アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美」には、世界的に活躍するバレエダンサーの首藤康之さんに『ホワイト・レジェンド』について、元宝塚歌劇団で現在は女優として活躍する紅ゆずるさんに『ロミオとジュリエット』について、それぞれインタビューしています。
他にも同号には、まもなく開幕する北京五輪の代表となったフィギュアスケーターたちの今季の歩みを振り返る記事が満載です。