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《追悼》国見で6度選手権制覇、名将・小嶺忠敏が明かしていた“三浦淳寛の伝説” 「大会期間中だけは自主練習をやめてくれ」
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/01/07 11:04
小嶺忠敏が厳しくも愛情のこもった指導で育てた“個性的プレーヤー”は数知れない
小嶺が子どもたちに伝えたいことは変わらない
強風吹き荒れる駒沢陸上競技場にタイムアップの笛が鳴り響いた。長崎総科大附属の令和初の選手権は、わずか1試合で幕を閉じた。千葉翼のゴールで先制し、後半残り5分まで2-1でリードしていたが、終了間際にまさかの2失点を喫した。
小嶺はベンチに座ったまま動かない。10秒ほどして、温和な表情で立ち上がった。
「これまでならば2、3回教えれば伝わることも、今年は50回教えなければ理解できない世代だった。それくらい、チームをつくるのに時間がかかりました。でも、彼らなりに一生懸命やって、大切なことを理解してくれたと思う。インターハイでは県予選でベスト8敗退だったチームが、よくここまで来たと思います」
三浦の世代にも、渡邉の世代にも、「50回教えないと伝わらない」現代っ子に対しても。たとえ選手権で優勝しようと、1回戦で敗退しようと、小嶺が子どもたちに伝えたいことは、変わらない。
常に謙虚でありなさい。
素晴らしいサッカー選手である前に、素晴らしい人間でありなさい。
「100回大会で、頑張れるチームをつくろうかね!」
「選手権では活躍できなかったけど、きちっと立派に働いている教え子は、たくさんいます。逆に、選手権でゴールも決めたのに、残念ながら今では周囲から全く信頼されなくなった教え子もいます。その違いは、人間性です。メッキは剥がれるんです。
子どもたちには『今、俺の言っていることが理解できなくてもいい』と伝えています。『20年後、30年後、君たちが高校生の子どもを持ったときに、身に染みてくれたらいい』と。そのときに“良い師匠に出会えたな”と思ってもらえれば、それが一番。指導者冥利に尽きますね」
選手権は再来年度、100回大会を迎える。記念大会での優勝、狙いますか?
記者に尋ねられた小嶺は豪快に笑った。
「今の1年生には、楽しみな選手もいるからね。ある程度、戦える目処は立つかもしれない。100回大会で、頑張れるチームをつくろうかね!」
74歳の“教育者”は、力強い足取りでチームバスに向かった。