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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
上谷沙弥「アイドルへの未練はなくなった」 元バイトAKBがスターダムで“本物のプロレスラー”になるまで《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/28 17:15
両国大会では中野たむのワンダー・オブ・スターダム王座に挑戦する上谷沙弥
入場時の“ダンス”を辞めた理由
今回は上谷沙弥ならではの試合、上谷沙弥にしかない狂気を見せて勝つつもりだ。たむに教わった“感情のプロレス”を、今は自分の形に昇華しようとしている。たむとはアイドル出身という点でも似ているが、それぞれのスタンスは違う。
たむにとっては、アイドル時代があってこそのプロレスだ。日本武道館大会でメインを張った時、彼女は「武道館はアイドル時代の夢だった」と語っている。プロレスはアイドルとして叶わなかった夢が叶う場所であり、だから余計に大事に思える。アイドルがプロレスラーをやっているから強い、そう見えるのがたむの魅力だ。
一方、上谷は「アイドルへの未練はなくなりました」と言う。
「前はシングルマッチの入場の時に踊ってたんです。やっぱりアイドルとして見られたい、可愛く見られたいという気持ちがあったんでしょうね。プロレスに自信がないからそう思ってたのかもしれないです。
でも今は違いますね。プロレスラーのカッコよさを知って“アイドルレスラー”じゃなく“プロレスラー”になりたいと思うようになりました」
リングでスポットライトを浴びたりファンに応援してもらうのは、あくまでプロレスラーとして。アイドル時代の代償行為ではなくなった。
「プロレスに出会えたのは運命だと思います。自分のことが好きになれた。中野たむには感謝しかないです」
アイドルもプロレスも「全人生をかけた表現」
けれども今は、たむとは違うタイプのレスラーになろうとしている。だからこそ、タイトルマッチも勝つチャンスが生まれるだろう。そんな上谷に、アイドルとプロレスはどこが似ていてどこが違うか、あらためて聞いてみた。
「似ているのは生き様、人生が全部出るところですね。アイドルは可愛いだけみたいに言う人もいますけど、決してそんなもんじゃない。プロレスと同じで全人生をかけた表現だと思います。
プロレスとアイドルで違うのは……まず痛いか痛くないか(笑)。それから適性の違いですね。どんな人が向いているかが違う。アイドルの世界にもいろんな個性の人がいますけど、プロレス界はもっといろんな人がいる。
体型、性格、表現のスタイルだったり、より自由に自分の魅力を出せるのがプロレスかなって。“プロレス向き”の幅が広いというか。私も最初は自信がなかったけど、結果としてプロレスに向いてたんだと思えます、今は」
アイドルからプロレスラーへ。さらに自分だけのプロレスへ。身体能力抜群であり“感情人間”であり、またプロレス観も鋭い。まだキャリア3年目。上谷沙弥というレスラーの魅力には、まだまだ埋蔵量がありそうだ。中野たむでさえ気づいていない力もあるだろう。それが出せたら、上谷は両国で白いベルトを巻くことになる。
(撮影=杉山拓也)
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