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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
上谷沙弥「アイドルへの未練はなくなった」 元バイトAKBがスターダムで“本物のプロレスラー”になるまで《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/28 17:15
両国大会では中野たむのワンダー・オブ・スターダム王座に挑戦する上谷沙弥
「白いベルトは私のほうが似合うでしょ」
年内最終戦となるビッグマッチ、12月29日の両国国技館大会では、中野たむが持つ白いベルトに再挑戦する。上谷にとって、たむは「師匠」。7月に挑戦した際は「師匠超え」がテーマだった。だが今回は違う。
「師匠を超えたいと言ってる時点で私が下になってましたね。それでは勝てない。今は、むしろ自分が上くらいのつもりでいます。“なんで私がチャンピオンじゃないの。白いベルトは私のほうが似合うでしょ”って」
中野たむに勝ちたいという以上に、白いベルトがほしい。理由はいくつかある。一つは、赤いベルトのチャンピオン、林下詩美とのタッグを「赤白タッグ」にして、さらにタッグ王座も奪還すること。もう一つは、自分が「感情人間」だからだ。嬉しくても悲しくても、とにかく感情がMAXに達しやすい。大笑いしていたかと思うと涙が止まらなくなる。そんな自分には白いベルトが似合うと思っている。
「女子プロレスは、男子と比べてもいろんな感情が出るしそれを大事にしていると思います。強くなりたい、勝ちたい、上に行きたいというだけじゃない。先に出世されて悔しいとか羨ましいとか、嫉妬の感情も試合で出すのが女子プロレス。特に白いベルトのタイトルマッチは感情がむき出しになりますね」
上谷が重要だと考える「狂気性」
赤いベルトが実力最高峰の証なら、白いベルトはドラマ性重視。ベルトをめぐるたむとジュリアの激しい闘いから“感情のベルト”、“呪いのベルト”とも呼ばれる。上谷はたむとのタイトルマッチで、感情を全開にするプロレスを体感した。
「私は感情人間なんですけど、辛い時や苦しい時に平気なふりをしたいタイプでもあったんです。でもプロレスはそうじゃなくていい。感情を全部出すのがプロレス。7月のタイトルマッチの前、中野たむに“上谷はまだ出してない感情がある”、“ドロドロした感情も私になら出せるはず”と言われました。“自分の弱さと向き合え”とも。負けたけど、それができたと思います」
エルボーや張り手の打ち合いは、技というより感情のぶつけ合いだった。確かに上谷は、白いベルトの闘いが似合っていた。ただ、前回の試合は“中野たむの世界”だった。今回の試合、勝つためには「狂気性」が大事になると上谷は考えている。だがそれは“泣きながらガムシャラに殴り合う”といった攻防をすることだけではないと思うようになった。
「狂気って、人によっていろいろだと思うんですよ。まずプロレスやってる時点で狂ってるな、とも思いますし(笑)。私の場合はどうだろうと考えたら、狂気が技に出るタイプじゃないかなって。飛び技もそうですけど“何をやってくるか分からない”という怖さ。イメージトレーニングというか、よく“こんなところで相手にあんなことをやったら……”って考えるんですよ。それが凄く楽しくて」