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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“宇宙一かわいい”スターダム王者・中野たむが“唯一無二”である理由「誰よりも呪われて、誰よりも狂って」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/28 17:16
現ワンダー・オブ・スターダム王者で、両国大会では上谷沙弥の挑戦を受ける中野たむ
「毎日狂いそうなくらいこのベルトのことを考えてます」
初防衛戦の相手はなつぽい。元のリングネームは万喜なつみだ。彼女もアクトレスガールズを離れ、東京女子プロレスを経てスターダムへ。そして“呪いのベルト”をかけてたむと再会することになった。空中殺法が得意ななつぽいだが、この試合ではたむを殴りに殴り、ついには泣きながら殴った。
「初防衛戦のなつぽいから情念をぶつけてきてくれた。そうして“呪いのベルト”になっていったんです。タイトルマッチは毎回、痛くて苦しくて、本当に毎日狂いそうなくらいこのベルトのことを考えてますね。でも、それが私の生きがいだなって」
V5、V6戦は同じユニットのウナギ、白川と。同門だからこそ情念は燃え盛る。白川は溢れるたむへの想いを、涙を象ったフェイスペイントで表現した。“呪いのベルト”をかけた闘いでチャンピオンとして勝つ。それはチャレンジャーたちの情念、執念を受け止めることにほかならなかった。
「たとえば白川に対しては、私を超えてほしいという気持ちと、まだまだ超えさせないという気持ちの両方がありました。私は(スターダムのアイコンと呼ばれる)岩谷麻優を追っている。白川はそんな私を追ってくる。気持ちは痛いほど分かって、だから申し訳ないような気持ちにもなります。タイトルマッチでの白川は完全に呪われちゃってましたね。そこにゾクゾクしました。あぁ、このベルトはそれだけの魔力があるんだって。ベルトの価値が上がってる証拠だと思います」
“決着”の時まで防衛し続ける
かつてチームを組んでいた岩谷麻優は、たむにとって倒さなければいけない存在だ。10月の防衛戦では30分時間切れ引き分け。いずれ決着をつける時が来る、それまで防衛し続けるとたむは考えている。もともと、追いかけるほうが性に合うタイプだ。
「超強いヤツにボコボコにされると燃えてくるんですよ。ドMですね(笑)。そういう意味ではチャンピオン向きではない。それなのに防衛できているし、チャンピオンであることにやりがいを感じてます。ということは、私自身もベルトを巻くことで変化してるんでしょうね。
確かにキツいんです、防衛戦は。感情を露わにするより、相手の感情を技という形で受け止めるほうがしんどい。重いんですよ。1週間くらい引きずっちゃいますから。前のチャンピオンの情念だって背負ってますし。もう、どんどん“重い女”になっちゃいますね(笑)」
上谷戦は「最高で最強の試合」になるか
次の防衛戦は12月29日、両国国技館大会での上谷沙弥戦だ。上谷は今年2度目の挑戦となる。前回以上の試合ができるはずだと、たむは上谷に期待している。上谷はスターダムが手がけ、たむがGMを務めたアイドルグループの出身。彼女にプロレス入りを薦めた1人がたむだった。
「上谷は私を師匠だって言うんですけど、私はそんな目線で上谷を見たことがなくて。前回の対戦の時は、そこは何か違うなと思ってました。でも今回は“師匠に勝ちたい”ではなく“1人のプロレスラーとして白いベルトを巻きたい”と言っている。その分、前回より覚悟も強いと思います。
狂気について考えているとも言ってましたね。狂気って考えて出すものなのかなって思いますけど。というより、上谷はナチュラルにまあまあ狂ってますよ(笑)。本気でやり合えば、リング上ではその人の本質が勝手に出ると思います。私は本質を出させるための、上谷のスイッチを押したい。
白いベルト戦は、情念の勝負だから自然と打撃戦が多くなります。でも上谷は飛び技が得意なハイフライヤー。スイッチが入った上で彼女にしかない“技”を使ってきたら……最高で最強の試合ができる」