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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“宇宙一かわいい”スターダム王者・中野たむが“唯一無二”である理由「誰よりも呪われて、誰よりも狂って」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/28 17:16
現ワンダー・オブ・スターダム王者で、両国大会では上谷沙弥の挑戦を受ける中野たむ
中野たむ「これが私の人生のすべて」
たむにとって、プロレスの試合とは「会話」だ。
「挑戦者が気持ちをぶつけてくれて、自分もぶつけて。日常ではできない会話ができるんです。私は日常のコミュニケーションが得意じゃないけど、リングの上でだったら会話ができる。うまくしゃべれるというか、饒舌な自分になれますね(笑)。そう考えると女子プロレスラーはコミュ障、普段は人付き合いが苦手な人間が多いかもしれない。リングに生きる場所、生きる理由を見出してるんです。私もそう。自分が一番“生きてる”と思える場所がリングなんです」
もちろん時間で言えば、リングに上がっているのは人生の中でごくわずかだ。しかしその短時間の濃さがとてつもない。
「これが私の人生のすべて。これしかないって感じてます。この“呪いのベルト”に呪われ続けることが私の生きがいなんです。だからこの防衛ロード、たむロードでプロレス人生が燃焼しきってもおかしくないと思ってます。中野たむはこの道で終わってもいいって。
チャンピオンとしてやりたいことはあります。岩谷麻優に勝つこと。チャンピオン・中野たむvs.チャレンジャー・ジュリアという形でタイトルマッチをやること。それができた先に自分がどうなるか分からなくて。このベルトを落としたら、中野たむは終わっちゃうと思います。でも落としたくはない。それだったらベルトとともに燃え尽きたい。それくらいのめり込んでますね。このベルトを守ることが、中野たむのすべてと言っていい」
誰よりも呪われて、誰よりも狂って
たむにはもう一つ聞きたいことがあった。彼女は白いベルトを“呪いのベルト”と呼び、同時に自分を“白いベルトの聖なる王者”とも言う。その2つの要素は両立するものなのだろうか。むしろ両極端ではないか。
「言われてみれば……“呪い”と“聖なる”は両極なんですかね? 私はそういうふうに考えたことがなくて。呪われて狂ってる人って、それだけ自分の本性が出てる、感情が露わになってる状態だと思うんですよ。私はそういう人ほど美しいし、聖なる状態にあるんじゃないかと思っていて」
挑戦者と“情念”で会話しながら、同時にアイドル出身で“宇宙一かわいい”を標榜するのも中野たむである。誰よりも呪われて、誰よりも狂って、だから中野たむは浄らかに美しい、唯一無二のチャンピオンになった。
(撮影=杉山拓也)
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