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汚れた大物と殿堂入りのラストチャンス。ボンズやクレメンス、Aロッドに復権の機会は与えられるのか? 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2021/12/25 06:00

汚れた大物と殿堂入りのラストチャンス。ボンズやクレメンス、Aロッドに復権の機会は与えられるのか?<Number Web> photograph by Getty Images

90年パイレーツ時代のボンズ(左)と、96年マリナーズ時代のAロッド。若さもあるが、薬物に手を出してないであろう時代の二人は細い

 もし仮にボンズとクレメンスが最後のチャンスをものにすれば、WAR の総和は一気に跳ね上がる。なにしろ、ボンズが162.7(史上4位)、クレメンスが139.2(史上8位)の高い数字を残しているのだ。ボンズはタイ・カッブよりも上で、クレメンスはハンク・アーロンのすぐ下。

 ここにアレックス・ロドリゲスが仲間入りすると、驚きが駄目押しされる。Aロッドの通算WARは117.5(史上16位)で、野手としてはテッド・ウィリアムズとルー・ゲーリッグの間に挟まれる恰好になる。

 この3人だけでもWARの総和は419.4に達するが、もしこれにカート・シリング(80.5)、デヴィッド・オルティース(55.3)、サミー・ソーサ(58.6)、マニー・ラミレス(69.3)、ゲイリー・シェフィールド(60.5)の名前が加わると、アンタッチャブルと思われた36年に限りなく接近する事態が生じる。

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 ただ、BBWAAがここで甘い顔をする可能性は低い。殿堂入りを果たすには協会員の75%を超える票が必要だが、ボンズの場合は2021年に獲得した61.8%がこれまでで最高だ。投票者の数を21年と同じ401名と仮定すると、入所するにはあと53票が必要になる。最初に権利を得た13年の得票率が36.2%だったことを思えば、ここからさらに票を上乗せするのはむずかしい。

 もっとも「ラストイヤーのご祝儀」というどんでん返しが起こる可能性がゼロだとは言い切れない。エドガー・マルティネスの場合は、前年の70.4%から85.4%に伸びた。ラリー・ウォーカーなどは、54.6%から76.6%にまで飛躍した。

殿堂入りを放棄する薬物使用

 それにしてもボンズは、薬物など使用しなくとも十二分に殿堂入りが可能だったはずだ。年間73本塁打を放った2001年のモンスター的な体型とパワーを振り返ると思わず声が小さくなるが、7度も輝いたMVPのうち2度は、まだほっそりしていたパイレーツ時代に獲得したものだった。

 それなのに、魔が差したのだろうか、彼はステロイドに手を出してしまった。あんなことをしなくてもよかったのに、という思いはいつまでも消えない。クレメンス、ソーサ、シェフィールド……そしてたぶん、PED検査で陽性反応を示したことのあるAロッドやオルティースも、その列に連なる可能性がある。

 あれだけの才能を誇り、あんなにファンを喜ばせてきた選手たちが、部分的にとはいえ張子の虎の要素を抱えていた事実を前にすると、歯がゆい思いがつのってならない。

 ちなみにいうと、通算WARの史上ベスト20のなかで殿堂入りを果たしていない選手は、ボンズ、クレメンス、Aロッドの3人だけである。だが、この数値も絶対的な指標ではない。ケン・グリフィーJr.は83.8で57位、ジャッキー・ロビンソンは63.9で151位、イチロー・スズキは60.0で191位にランクされている。

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