濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“武尊のライバル候補”から“井上尚弥の同門”へ…武居由樹が3連続秒殺KO勝利で証明した「元K-1王者がボクシングでも強い理由」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byPXB PARTNERS
posted2021/12/24 17:02
12月14日に行われたボクシング転向3戦目で、59秒の衝撃KOを見せた武居由樹
“強烈なプロ意識”が生んだKO
キックボクサー、K-1ファイターとしての武居は、23勝(2敗)16KOのうち11の1ラウンドKOを記録している。チャンスと見たら一気に勝負をかけることができるタイプだ。魔裟斗が「鉄球のよう」と絶賛したパンチ力に加えて、勝機を見出す能力も高い。それがボクシングでも出ているのではないか。
強烈なプロ意識も、K-1のチャンピオンとして培ったものだ。今後を見据え、ボクシングの実戦経験を積むためには、長いラウンドを闘うことも必要だ。デビュー3戦目、そろそろそういう試合をしようという気持ちは武居自身にもあったという。だが、そうはならなかった。
「今日の大会が判定の多い流れだったので、PPVもあるし倒さなきゃって」
これはやはり“新人ボクサー”の思考ではない。K-1のチャンピオンは興行を背負う立場だ。それは観客、視聴者を満足させる責任を持つということ。倒して勝つことで大会全体を盛り上げ、ファンを喜ばせる。武居にはその感覚が沁み込んでいるのだ。
「それは古川会長にもずっと言われてきたことなんです。判定が多い大会になると“お前が倒さなきゃダメだぞ”って」
武居「ボクシングでの完成度はまだ30%」
八重樫トレーナーは「仕留めにいく嗅覚、大胆さは天性のもの。今回はそれを止めなきゃいけない場面でもなかった」と言う。ただ今後は「段階を踏んで相手を“削って”いく作業が必要になる」とも。武居も「ボクシングでの完成度はまだ30%くらいです」。
SNSでのファンの反応やボクシング記者たちの見方も興味深い。その強さを讃えつつ「分からない」という声も多いのだ。倒すのが早すぎて、弱点や課題を含めた能力の全貌が見えないというわけだ。武居はまだ、ボクシング公式戦で3試合トータルで5分39秒しか闘っていない。
「早い段階でベルトがほしいです。それに近づける闘いをしていきたい」
来年に向けてそう語った武居。これから対戦相手もどんどん強くなるだろう。ただし武居もまた“ボクシング仕様”でレベルアップしていく。いつか能力の全貌が見られる日もくるだろう。そしてそこにはK-1ファイター、K-1王者としての力も間違いなく含まれている。幾分か薄まったとしても、おそらく失われることはない。
「ボクシングのチャンピオンになるのは簡単なことじゃないと思います。でもK-1でベルトを巻くのだって難しかったので。K-1でトップの人たちと闘って勝ってきた、その自信は持っていたいですね」
1年前、K-1両国大会のバックステージで聞いた武居の言葉だ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。