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“武尊のライバル候補”から“井上尚弥の同門”へ…武居由樹が3連続秒殺KO勝利で証明した「元K-1王者がボクシングでも強い理由」
posted2021/12/24 17:02
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
PXB PARTNERS
K-1ファイターとしてボクシングの世界チャンピオンになる。そんな夢を抱いて名門・大橋ジムの所属となった選手がいる。K-1でスーパー・バンタム級のベルトを巻いていた武居由樹だ。
第1回K-1年間表彰で武尊を差し置きMVPを獲得したこともある武居。“悪ガキ”だった彼は地元・足立区の格闘技ジムPOWER OF DREAMに預けられた。そこでは古川誠一会長のもと、問題を抱えた子供たちが共同生活を送りながら練習に励む。彼らの姿はフジテレビの『ザ・ノンフィクション』でも取り上げられたから覚えている人もいるかもしれない。
K-1系列のKrushで-53kg級の初代チャンピオンになると、K-1では-55kg(スーパー・バンタム級)チャンピオンに。武尊に続いての第2代王者だった。武尊の次のK-1エース、あるいは武尊を脅かす存在になる選手。多くのファンはそう思っていたはずだ。
2020年、K-1からボクシングへの転向宣言
ところが1年前、武居はタイトル返上とボクシング転向を宣言する。2020年、彼はケガで試合から遠ざかり、コロナ禍もあって自分を見つめ直したという。そこで出した結論が、ボクシングで世界チャンピオンになることだった。もともと、武居はアマチュアボクシングの経験もあった。
K-1が嫌になったわけではない。だからK-1ファイターとしてのプライドは捨てなかった。昨年12月13日、K-1両国国技館大会でファンに向けて挨拶。武尊に花束を贈呈され、「K-1代表としてボクシングでも必ず結果を残します」と誓っている。
井上尚弥を擁する大橋ジムで武居のトレーナーについたのは、世界3階級制覇、“激闘王”とも呼ばれた八重樫東だ。同時に古巣のPOWER OF DREAMの朝練にも参加し続けている。
POWER OF DREAMではチャンピオンになっても外泊禁止。プライベートから厳しく指導されてきた。大橋ジムのある横浜に移っても「僕にとってはお父さん」の古川会長のもとで自分の気持ちを“締める”必要があると考えたそうだ。
「古川会長と八重樫さん、2人の師匠がいるのが僕の強みです」
井上尚弥世界戦の前座で見せた衝撃の3戦目
2月、井上らとともに出場したチャリティーイベント『LEGEND』で元世界王者・木村翔との“ガチ”スパーリングを披露。規定の3ラウンドを終えた木村は、武居をこう評した。
「階級が違うとはいえ判定があったら負けでしょう。普通に日本、東洋(タイトル)獲る選手だと思います。今後の成長しだいで世界もある」
3月のデビュー戦、9月の2戦目ともに1ラウンドでKO勝ち。将来への期待もいよいよ高まる中で組まれた3戦目の舞台は12月14日の両国国技館大会。K-1を卒業した会場、武尊に花束をもらってから1年と1日後のことだった。言うまでもなく、井上尚弥の世界戦『PXB WORLD SPIRITS』の前座である。
出番はセミファイナル(谷口将隆vsウィルフレッド・メンデスのWBO世界ミニマム級タイトルマッチ)の一つ前という好ポジション。これは次代を担う武居の“お披露目”という意味もあったのではないか。