濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“武尊のライバル候補”から“井上尚弥の同門”へ…武居由樹が3連続秒殺KO勝利で証明した「元K-1王者がボクシングでも強い理由」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byPXB PARTNERS
posted2021/12/24 17:02
12月14日に行われたボクシング転向3戦目で、59秒の衝撃KOを見せた武居由樹
“わずか59秒”の豪快KO
初のA級ライセンス、8回戦。対戦したのはアマチュアで豊富な経験を持ち、プロでも2勝1分の今村和寛だったが、試合はまたも1ラウンドで終わった。タイムはわずか59秒。
サウスポーの武居が最初に出したのは右のジャブ。次のフックで早くも今村がフラつく。さらに左右のフックを当てると、今村の右フックに右のアッパーを合わせた。崩れる今村に左フック、右フックと追い打ち。この日一番の“豪快KO”だったと言っていい。
敗れた今村の表情も、どこかスッキリしていた。インタビュースペースでの第一声は「痛かったです(笑)。効きましたね」だった。試合は「一瞬」で終わってしまったが「一瞬だから偶然ということではない。実力差を感じました」と言う。それだけ武居が圧倒的だったのだ。
K-1のチャンピオンだったからこその強さ
大会はABEMAでPPV中継。ABEMAはK-1を中継しているだけに過去の映像も豊富に使われていた。実況はK-1をはじめ格闘技中継でおなじみの矢野武。ゲスト解説の関根勤もKrush時代から武居を見ている。
武居につけられたキャッチフレーズは“K-1からの黒船”だった。入場テーマ曲はK-1時代と同じ、クイーンの『ボーン・トゥ・ラヴ・ユー』。トランクスのベルト部分には「夢之力(=POWER OF DREAM)」とある。試合後のマイクでは、つい「足立区から来ましたPOWER OF DREAMの」とK-1時代と同じ挨拶をしてしまった。
リング上の闘いについても、彼は単なる“ボクシングの新人”ではない。K-1のチャンピオンだったからこその強さというものもある。蹴りのあるK-1とボクシングでは距離感やリズムが違う。武居はそれに慣れなければいけないのだが、相手にとっては「ボクシングにはない距離感とリズムの武居だからやりにくい」という面もある。八重樫トレーナーも、指導する上でK-1時代からのよさを消さないことを意識しているそうだ。
「いいところを残しつつ、ボクサー仕様にしていきたい。もともと完成されたキックボクサーなので、それをボクシングのルールに則った形にして。ボクサーにしようとは思ってないので。“武居由樹”という形で」
K-1の独自性もあらためて説明しておいたほうがいいだろう。K-1は“K-1という競技”を標榜している。ムエタイや従来のキックボクシングと違い、首相撲など組みついての攻撃は一切禁止だ。“殴る蹴る”だけに特化したルール。ヒザ蹴りはあるがヒジ打ちは禁止となっている。
つまり接近戦でも「組んでヒジ、ヒザ」ではなく殴って蹴って、相手を押したりいなしたりして距離を取ることが求められる。武居はそういうK-1で抜群の強さを発揮し、チャンピオンになりMVPを獲得した。“組まない闘い”で強いから、それだけボクシングにもアジャストしやすい(同じことは、組んでの攻撃が1発のみと制限されたRISEを主戦場とし、2022年にボクシングに転向する那須川天心にも言えるだろう)。