箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「箱根駅伝だけで大学入学は踏み出せない」「徳本監督でなければ絶対になかった」31歳今井隆生が明かす“挑戦を決めた”本当の理由
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byYuki Suenaga
posted2022/01/01 17:02
31歳で箱根路を走ることになった駿河台大学4年の今井隆生。その挑戦はなぜ始まったのか?
「学校での指導に無力さを感じていた時、徳本さんに相談して『心理学を学ぶ』という選択肢を教えてもらいました。生徒に教えるだけでなくて、時代に合った新しい関わり方を見つけるためにも心理学がキーワードになるんじゃないか。自分も学んでみたいと思ったんです」
「箱根駅伝だけでは大学入学には踏み切れなかったですね」
今井が箱根駅伝出場を目指したのは、あくまで心理学への興味が入り口だった。ただただ夢を追いかけて大学に編入学したわけではない。その後のキャリアを冷静に見つめての、決断だった。
「箱根駅伝だけでは大学入学には踏み切れなかったですね。もちろん目指すのは素晴らしいことだけど、やっぱり自分のキャリアに繋がらないと意味がない。あくまでも僕は一教師なので、心理学を学べることが大前提でした。心理学を勉強して、なおかつ幼い頃から見ていた箱根駅伝に挑戦できる。この二つがあったから、駿河台に編入しました」
何より欠かせないピースが、徳本監督の存在だ。「他の大学だったら、箱根駅伝には絶対チャレンジできなかった」と今井は言い切る。
「徳本さんじゃなければ、自分のチャレンジは叶えられませんでしたよ。環境を整えてくれたり、色々なマネジメントで支えてくれたりとか、やっぱり一番の理解者は徳本さんですよね。監督が徳本さんじゃなければ、心理学は学べたかもしれないけれど、箱根駅伝にはチャレンジしていません」
二人は、監督と選手という間柄でありながら、ともに心理学を学ぶ「同士」でもある。トラックでも、トラック外でも、徳本監督の姿勢に今井は多くの刺激を得ているという。
「徳本さんを箱根駅伝に連れて行くのが、自分の使命でした」
「徳本さんは派手なイメージが先行しているけど、実はものすごく勉強家なんですよ。論文を読み漁ったり、色んな本を読んだりとか、陸上競技という一つのカテゴリーにとらわれずに世の中に目を向けている。多岐の分野にわたって知識が長けているので、自分もこういう人間になりたいな、と一緒にいて思える2年間でしたね」
異色のランナー、そして異色の監督として注目される徳本監督と、異色の経歴を持つ今井。二人の「化学反応」が起爆剤となり、箱根駅伝初出場への秒針は早まったようにも思える。
「徳本さんは色んな固定観念を崩して、新しいものをものすごく取り入れる方なので、だからこそ僕もそこにマッチしているんだと思うんですよね。従来の固定観念だったらまず僕はチームに入れないですし。僕にとっての先生は徳本さん。その徳本さんを箱根駅伝に連れて行くのが、自分の使命でした」
心理学と、徳本監督。そのどちらかのピースが欠けていたとしたら、「体育教師ランナー」の箱根挑戦を見届けることはできなかっただろう。集大成となる舞台まで残りわずかな道のりを、今井は懸命に走り続けている。
撮影=平松市聖
(#2、#3へ続く)
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。