酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
《乳児を抱く妻の姿も》“合格率5~6%”のトライアウト参加者が激減した理由と、家族席に現れた“意外な主砲”とは
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byJIJI PRESS
posted2021/12/09 11:03
新庄監督や稲葉GMらが駆け付けたことが話題になった12球団合同トライアウト。選手の方に目を移すと、また別の意味合いを持つ
それは、NPBの現時点でのロースターにかなり空きがあることが大きい。
支配下選手の定員は70人だが、まだ各球団は60人前後しか埋まっていない。今年のドラフトで数人が入団するとしてもまだ空きがある。また今季はFA移籍の可能性があるのも中日の又吉克樹だけ。今年のストーブは冬早々に冷え込んでいるのだ。
今季、戦力外通告を受けた選手の中でも、内々に入団交渉をしているような選手はトライアウトへの出場を見送ったのではないか。楽天の牧田和久、ソフトバンクの釜元豪、広島の今村猛などがそうだろう。
注目を集めたのは巨人の山下航汰だった
選手数が少ないため、例年、1-1のカウントから始まる対戦が0-0からになっていた。
その中で注目を集めたのは巨人の山下航汰。巨人の育成枠での再契約を蹴ってトライアウトに挑んでいる。「099」という大きな背番号をつけていたが、スイングが速く動作もきびきびしている。結果としては6打数1安打だったが、目立っていた。
ベテランのスカウトに話を聞くと、こういうテストの際には投打のプレーだけでなく、選手の動作や表情にも注目しているという。ふてくされたり意気消沈したりする選手は、評価はおのずと高まらない。グラウンドにいる間中、はつらつとしている選手に注目している。
今年開催された独立リーグのトライアウトでは、あるNPB出身の指導者が筆者にこのように語っていた。
「トライアウトが終わったら、とたんに気が抜けてだらだら歩くような選手は見込みがない」
NPBのスカウトも同じような価値観を持っているのだと思う。
投手ではオリックスの神戸文也が打者の内角を突くストレートを投げ込んでいた。投げっぷりがいい印象。ロッテの左腕、永野将司も伸びのある速球を投げていた。
山川穂高が見つめた元最多勝投手・多和田の投球
昼前に、真っ白のトレーナーを着た大男が姿を現した。西武の主砲・山川穂高だ。大学の2年後輩で、今季戦力外を通告された多和田真三郎を見に来たのだ。多和田の家族と共に「家族席」に座った山川も黙ってグラウンドを見つめていた。
多和田は自律神経失調症で投げられなくなっていたのだが、最初の打者に四球を与えたものの、続く2人を打ち取った。球速は最速146km/hだった。
13時30分、すべての選手のテストが終わった。新庄監督は最後まで熱心に見届けて球場を後にした。今年は囲み取材も何もない。
足元から寒気が這い上がってくるような天候で、十分に腕を振ったり、バットを振ったりするのは大変だったと思う。怪我をしないように、そしてベストのプレーができるように、と祈りたい気分になった。
相変わらず冷たい雨が降る中、今年の12球団合同トライアウトは静かに終わった。33人の人生の「第2章」に幸あれと祈らずにはいられない。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。