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恩師は「20歳・奥川恭伸」をどう見た? 星稜高時代と共通する“翌年の成長”と山本由伸からもらった“宿題”とは 

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沢井史

沢井史Fumi Sawai

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2021/12/06 11:04

恩師は「20歳・奥川恭伸」をどう見た? 星稜高時代と共通する“翌年の成長”と山本由伸からもらった“宿題”とは<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

奥川恭伸の恩師である林監督は、日本シリーズでの登板を振り返り「この1年間でここまで来るとは思わなかった」とその成長に驚いた

 前述の2年秋の北信越大会決勝の啓新戦では2-2で引き分け再試合となり15回を9安打無四球で投げ切ったのだが、実はあるアクシデントがあった。13回のマウンドでピッチャーライナーが奥川の左手甲に直撃したのだ。

「大丈夫かと聞くと“大丈夫です”と。あそこで“無理です”なんて言わない子であることは分かっているとはいえ、指導者としては未来のある子なので(継投を)考えないといけなかった。でも、展開が展開で交代できなくて……。ベンチ裏で治療をして、続投しました」

 マウンドに戻ると1死一、三塁のピンチ。だが、直後に投げたストレートの球速は144キロだった。そこから全球ストレートで勝負し、結果は147キロのストレートで空振り三振。次打者も遊ゴロに打ち取りピンチを凌いだ。

「ここぞというところでゾーンに入って、入ってしまうとそう打たれない。あの時は余計なことを言わない方が彼のためにいいと思って、何も言いませんでした。普段はあまり見せませんが、負けず嫌いなところがそういうところで出ていました」

 ただ、林監督が「奥川のすごさを感じた」と話すのは2年時の明治神宮大会の初戦の広陵戦だった。実は中国大会で広陵の試合を視察した林監督は「投打でレベルが高く、そう簡単にはいかないと思った」と不安でしかたなかったという。

 だが、蓋を開けるとこの試合で初めて本格的に使ったというフォークが有効となり、7回を投げ3安打11奪三振、またしても無四球だった。「実際は広陵打線を全く寄せ付けなかったのは驚きました。神宮大会デビューで広陵相手にこんなピッチングができるなら、来年はすごいピッチャーになるのでは」と確信めいたものを感じたという。

8月以降は4連勝、恩師の見解は?

 とはいえ、今シーズン序盤はなかなか思うような結果が出なかった。4月8日の広島戦で初勝利を挙げるも、5回を投げ5失点。5月27日の日本ハム戦で2勝目を挙げるまでは2ケタ安打を浴びる試合も続いた。だが、オリンピックの中断を経た8月半ば以降から4連勝を含む6勝を挙げている。

「1球の出し入れができるようになったことと、ストライクゾーンがこうなんだ、ここに投げていたら大丈夫だという感覚が身についていったのでしょうね」と恩師は頷く。

 クライマックスシリーズファイナルステージでは、初戦の巨人戦で、わずか98球、6安打無四球でプロ初完封勝利。20歳6カ月でのプロ初完封はCS史上最年少だ。そしてそのクライマックスシリーズではMVPにも輝いている。日本シリーズでは今や日本球界のエースと言っても過言ではないオリックスのエース・山本由伸と互角に投げ合った。

「勝敗はつきませんでしたが、球界を代表するピッチャーの投げる姿をその場で見て、これからはこうなっていかないといけないと思ったのではないですかね。結果的にこの試合は今季最後の登板となりましたが、去年の広島戦で鈴木選手や松山竜平選手に打たれた時と同じように、来年に向けた宿題をもらったのではないかと思います。去年負けた時とはまた違った衝撃を、この秋も受けたのではないでしょうか」

【次ページ】 一軍デビューも初完封も広陵戦も「11月10日」

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