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神の子・山本“KID”徳郁「伝説の4秒跳び膝蹴りKO」を激写したリングサイドカメラマンの告白「ノリくん、俺たちはいつも一緒だよ」
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2021/11/19 11:06
「神の子」と呼ばれた山本“KID”徳郁。2006年、宮田和幸戦で起きた伝説のKOとは何だったのか?
姉・美憂は11月20日にRIZINでRENAと再戦
また、スタジオの裏には太くて立派なしだれ桜が隣接しており、春になると親しい友人が集まって花見をする。KIDにも満開の桜を見てほしいと思い、一緒に花見をする。このときばかりはコーヒーではなく、アルコールを準備。夕方からはスタジオの機材で桜をライトアップ。あまりにも綺麗なのでSNSに投稿したところ、実姉の美憂さんから「ノリを花見に連れていって下さり、ありがとうございました」と、お礼を言われたこともある。
その山本美憂は11月20日のRIZIN沖縄大会で試合を行う。彼女は2016年にプロデビューしたが、結果は1ラウンドにチョーク(絞め技)で敗れた。そのときの相手はRENA(レーナ)で、今回は再戦となる。あのとき、負けてリングの中にいる山本美憂に、KIDは「やり返すぞ。次は絶対勝てるから」と言っていたらしい。当日はKIDも姉の試合を見守り、一緒に戦ってくれるだろう。
「あの跳び膝蹴りは急な思いつきか、それとも…」
私はKIDとは多くを話したことはない。普段から私は現役の選手と話をしない。むしろ、ある程度の距離を置いて接するようにしている。それは選手に対する尊敬の気持ちが強いからである。また、親しくなると思い入れが深くなりすぎて、冷静な写真が撮れなくなるからだ。
ただ、私はいまでも後悔していることがある。
私はKIDと4秒の試合について、話をしたかった。宮田の顎を粉砕し、失神させた跳び膝蹴りは、急に思いついたことなのか。それとも試合前から、そうしようと決めていたことなのか。
この試合のときの心情を掘り下げて、話を聞いてみたかった。
私のスマホの待ち受け画面は、KIDの写真である。彼がこの世を去ってから、私はこの写真に変えた。その理由は、
「自分が悔いのない毎日を送れるように」
と思ったからだ。
KIDが全力で人生を駆け抜けたことは間違いない。そして若くして亡くなった彼の死からは、学ぶことが多い。
「今日という日を精一杯、生きているか」。私はスマホを開くたびに、彼の写真を見て、自問自答している。
ノリくん、俺たちはいつも一緒だよ。
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