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神の子・山本“KID”徳郁「伝説の4秒跳び膝蹴りKO」を激写したリングサイドカメラマンの告白「ノリくん、俺たちはいつも一緒だよ」 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2021/11/19 11:06

神の子・山本“KID”徳郁「伝説の4秒跳び膝蹴りKO」を激写したリングサイドカメラマンの告白「ノリくん、俺たちはいつも一緒だよ」<Number Web> photograph by Susumu Nagao

「神の子」と呼ばれた山本“KID”徳郁。2006年、宮田和幸戦で起きた伝説のKOとは何だったのか?

リングサイドカメラマンがとらえた「わずか4秒のKO劇」

 私はその瞬間に備えるため、軽く深呼吸し、いつも通りに右眼でファインダーを覗き、リング中央にピントを合わせた。左眼では青コーナーにいるKIDを注視。ゴングが鳴るやいなや、KIDが全速力で走ってくるのが見えた。

 すかさずシャッターを押し続けた。全身のバネを最大限に活用した膝蹴りが、宮田の顎を打ち抜いていた。わずか4秒でのKO劇だった。

 これまで自分が積み重ねてきた経験や、眼には見えない相手の動きや心情をよみとる力がなければ、この写真を撮ることはできなかっただろう。もちろん私も、いつもこの様な写真が撮れる訳ではない。格闘技においては、狙いが外れることの方が、圧倒的に多い。

「お~い、ノリくん」「お疲れ様っス」

 ある日のこと、私は都内の住宅街を車で走っていた。信号のない交差点で、いかつい雰囲気の男が、自転車で横断歩道を渡ろうとしているのが見えた。私はトラブルを起こしたくないと思い、車を停めた。その男は片手をあげて、「ありがとう」というサインをこちらに送ってきた。そのとき初めてその男がKIDだとわかった。私は車の窓から「お~い、ノリくん(私は普段KIDのことをこう呼ぶ)」と声をかけた。彼はすぐに私だと気づき、「お疲れ様っス」と、にっこり微笑んだ。

 世間では、「KID選手は怖そう」というイメージがあるかもしれない。しかし、彼は線路に落ちて意識を失った人を、真っ先に救出したことがあった。また、動物保護活動にも積極的に参加していた。主宰する自身のジムでは後輩思いの優しい先輩で、いまでも彼のことを慕う選手が多い。亡くなる前には、試合の機会が少ない若手選手のために、『KRAZY LEAGUE』という大会を開催した。

 私のスタジオの控室には、KIDの小さな写真を飾っている。私が撮影したスタジオ写真だ。

 スタジオへ行くと、すぐにコーヒーを入れるのだが、最初の一杯は彼の写真の前に置く。KIDはビーガンだったので、「コーヒーもきっとブラックだろう」と私は勝手に思っていた。そんな折、実妹の聖子さんから「兄はミルクなし、砂糖が多めのコーヒーを飲んでいました」と聞かされた。私はすぐさまスティックシュガーを買いに走った。それ以来、彼には砂糖をたっぷり入れた甘いコーヒーを置くことにしている。余談だが、聖子さんの夫であるダルビッシュ有選手がテレビ番組で、私が撮影したKIDのフォトTシャツを着用していた。野球ファンの私としては、すごく嬉しかった。

【次ページ】 「あの跳び膝蹴りは急な思いつきか、それとも…」

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