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鈴木誠也の大リーグ挑戦は「いいタイミングではない」が…MLB経営者側と選手組合の衝突激化で〈大谷翔平の年俸問題〉にも影響?
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byJIJI PRESS
posted2021/11/16 17:05
ポスティングでのメジャーリーグ挑戦を表明した広島の鈴木誠也。
有力球団が年俸総額を抑制する可能性も
選手の年俸総額の下位20球団が合計で約234億円もの上乗せをするのだから、上位5球団が10億円前後の年俸削減をしても、差し引き220億円を遥かに超える大金が選手の利益となるという提案だ。
ただし、数字の上では確かに選手たちへの利益が増えるものの、上限が下がると上位5球団だけではなく、過去に贅沢税を支払ってきたドジャースやフィリーズ、アストロズやカブス(約8780万ドル)などの有力球団も、選手の年俸総額を抑制する可能性がある。
それに約234億円と言っても、1球団平均では約1938万ドル(約21億3180万円)に過ぎず、昨オフのFA市場の目玉選手トレバー・バウアー投手(ドジャース)の年俸が2800万ドル(約30億8000万円)、ジョージ・スプリンガー外野手(ブルージェイズ)の年俸が2200万ドル(約24億2000万円)だったことを考えれば、トップFA選手1人分の年俸でしかない。
それでは選手組合が求める「メジャー歴の短い選手たちの待遇改善」と「全球団の競争力向上」の同時達成には程遠く、合意するのは簡単ではない。選手の利益を追求する組合にとっては、「その財源をどう確保するのか?」はあくまで、「経営者側の努力」であり、過去2年の間に新型コロナウイルスの感染拡大で観客動員数が大幅に減少し、いわゆる「チケット収益」が激減した現況を考慮はしているものの、現行の労使協定から後退するような見直しなど、受け入れられものではないだろう。
ポスティングも来シーズンの方がタイミングがいい
大胆な改革案を提案する経営者側とそれを拒否する選手組合という構図が今後も続くようなら、交渉は難航する。すでに解禁されたFA市場が活発化しないのは、経営者側が労使協定の交渉経過を注意深く見守っているためで、今年は怪我のためにプレーしなかったベテランのジャスティン・バーランダー投手のような選手をリスクを承知で獲得するような球団や、新しい労使協定の締結のために経営者側の提案に抵触しないような選手を獲得する球団は現れても、新しいCBAが締結されるまではトレードによる補強が中心となるはずだ。
だから、ポスティング制度を行使しての移籍も、長期戦になるかも知れない。今はまだ、2月のキャンプや3月の開幕が延期されることは危惧されていないが、「その可能性はある」ので今年に関しては「あまり良いタイミングではない」というのを念頭に置いて決断しなければならない。
来年は福岡ソフトバンクホークスの千賀滉大投手が海外FA権を取得するそうだが、ポスティングも来オフの方が「タイミングはいい」。
その頃はきっと、今よりもはるかに穏やかで、緩やかな追い風が吹いているはずだから――。
この原稿校了後、鈴木選手の「メジャー挑戦」が発表された。今はただ、その固い決意が少しでもいい形で報われるのを願うばかりだ。