Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
「え、まさかここでカズさんを…」“敗退したら日本で暮らせない”状況で、岡田武史(41歳)は決断した〈元代表戦士が語るジョホールバルの裏側〉
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2021/11/16 06:00
「ジョホールバルの歓喜」から24年。元代表戦士たちが“あの試合と岡田武史”を振り返る
中田が日本代表に選ばれたのは、最終予選の開幕する3カ月半前のことだった。加茂に抜擢された青年は、瞬く間にチームでの存在感を高めていった。
岡田の初陣となったウズベキスタン戦では先発を外れたが、途中出場すると相手をなぎ倒すようなドリブル突破を繰り返した。
その闘志あふれる姿に、岡田は中田を中心に据える覚悟を決めたという。
ADVERTISEMENT
「20歳とは思えなかったですね」
この年にベルマーレ平塚に加入し、中田とチームメイトになった呂比須が振り返る。
「年上に対して厳しいことを平気で言う。ブラジルでは当たり前だけど、日本では珍しい。ヒデとは、足元なのか裏なのか、パスの出しどころで衝突することもありましたけど、自分の考えがあって、しっかり主張するから、実は30歳なんじゃないかって」
運命の一戦で手にした日本のアドバンテージは、後半を迎えてすぐに失われてしまう。46分にアジジにゴールを許すと、59分にはダエイに豪快なヘディングシュートを決められるのだ。
目の前で逆転を許した井原は「秋田(豊)の上を行かれたんだから仕方がない」と、ショックを振り払おうとしていた。だが、相馬はまったく別のイメージを持っていた。
「今日は延長戦かって。90分でひっくり返すのは難しい。だから、まずは追いついて、延長に入って逆転勝ちだなと」
警戒していた相手エースの逆転弾を浴びたにもかかわらず、試合前に抱いた「今日は絶対に勝てる」という自信が揺らぐことはなかったというのだ。
「ゾーンに入っていたんだと思います。自分だけじゃなく、チーム全体が」
「まさかここでカズさんを」…岡田監督の“決断”
この時、もしかすると指揮官もゾーンに入っていたのかもしれない。反撃の姿勢を打ち出すために選手交代を決意した岡田は、呂比須を呼び寄せた……が、その瞬間、天からアイデアが降ってくる。とっさに2トップの同時交代へと、考えを切り替えるのだ。
ピッチサイドに城と呂比須が並び、ピッチではカズが自身の胸を指しながら「俺? 俺?」と確認している。
「え、まさかここでカズさんを、と驚きました」と井原は言う。
最終予選でのカズは、ウズベキスタンとの初戦で4ゴールを叩き込んでから、ぱったりとゴールから見放されていた。
「でも、そうは言っても、最後に決めてくれるのがカズさん。それにFWの2枚替えというのも初めてでしたから」
カズに代わって城がピッチに入る。なぜ、城だったのか――。この交代は、新時代の幕開けを意味していた。
のちに岡田は、こんなふうに語っている。