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《巨人ドラ1インタビュー》骨折でドラフト戦線“離脱”も「あきらめたくなくて」⋯翁田大勢が語る新フォーム&自己最速157キロの裏側
posted2021/11/04 11:01
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
Takahiro Kikuchi
10月11日の朝。関西国際大のエース右腕・翁田大勢(おうた・たいせい)は練習前にチームメートからこんな声をかけられた。
「外れ1位らしいで」
軽い冗談だと思った翁田は「もうええって」と受け流そうとした。しかし、チームメートからスポーツ報知の一面を見せられ、翁田の顔色は変わった。
スポーツ報知は巨人情報を扱わせたら右に出るものはないメディアである。その報知が、ドラフト会議当日に巨人の外れ1位候補として自分の名前を挙げている。翁田はにわかには信じられなかった。
翁田の成長を近くで見守ってきた鈴木英之監督からは、「大丈夫や」と声をかけられた。その顔には、何かしら事情を知っているような気配が滲んでいた。翁田は「もしかしたら、かかるかな?」と予感した。
ドラ1指名時は「喜びより驚きが勝った」
17時に始まったドラフト会議。巨人は隅田知一郎(西日本工業大)に1位入札するが、4球団重複の末にくじを外す。そして再入札で指名した選手の名前は、「翁田大勢」だった。
歓喜に沸く周囲をよそに、本人は「喜びより驚きが勝った」と語る。なぜなら、翁田にはドラフト1位指名選手にふさわしい実績や勲章があるわけではなかったからだ。
「僕はプロ野球が好きなんですけど、もし自分が巨人ファンなら『え、翁田? 誰?』ってなると思うんです」
もしかしたら、翁田という選手は近年でもっともスカウトの視察機会が少なかったドラフト1位なのかもしれない。
なにしろ今春の時点で翁田は右ヒジを疲労骨折しており、ドラフト戦線から離脱したと思われていたほどだ。
今春唯一のリーグ戦登板となった5月12日の大阪体育大戦、翁田は1アウトも奪えず、3四死球4失点で降板している。ヒジが痛み、腕が強く振れなかった。それでもマウンドに立ちたかった理由があったと翁田は言う。
「去年はコロナの影響で春のリーグ戦がなくなり、秋は自分のケガ(右ヒジ痛)で出られませんでした。丸1年も投げていなかったので、多少の痛みなら投げたかったんです」
登板後には右ヒジの疲労骨折が判明。泣きっ面に蜂で、進路は暗礁に乗り上げた。