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イタリア中の母たちが頬を緩める“驚くほど行儀の良い出来杉君” 「2世代表」フェデリコ・キエーザが放つ異質なオーラ 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2021/11/02 11:00

イタリア中の母たちが頬を緩める“驚くほど行儀の良い出来杉君” 「2世代表」フェデリコ・キエーザが放つ異質なオーラ<Number Web> photograph by Getty Images

「2世プレーヤー」として注目を集めるキエーザ。今時の選手とは異なる真面目な好青年はどのように育ってきたのか

父エンリコは息子に何も教えなかった

 父エンリコは、息子フェデリコにサッカーの手ほどきをしなかった。

 中学校に上がる頃、サッカーが面白くなってきた息子はテクニック向上のための助言やアドバイスを、かつての名ストライカーに盛んに求めたが、父は「それは監督やコーチの職分だ。だから彼らに聞きなさい」とくり返した。

 父エンリコが現役晩年のシエナ時代、円熟の技で40m級のFKを直接ゴールに叩き込んだことがあった。感激し、蹴り方を教えてよ、とせがむ息子に父は諭した。

「どう蹴るかを教えてやることはできない。助走も、足の位置も、タイミングも、俺の身体にだけ染み付いているノウハウだからだ」

 俺は俺、お前はお前だ。

 プロ選手になるためには、自分自身で物事を考え、どう対応するべきかを会得しろ。

 父エンリコの教育方針はそこに根ざしていた。褒めるのはゴールを決めたときではなく、グラウンドで最後まで諦めない姿と仲間を思いやる姿勢を見せたときだった。

 EURO史上初の父子2代での得点を決めたキエーザ親子は、如才なく周りを味方にして、サッカー界でのし上がることを一心不乱に目指している。

情熱を燃やし続けるものは「サッカー」と「宇宙」

 開幕前に2代目フェデリコが示した今季への抱負も、物理学を愛する彼らしく振るっていた。

「僕には小さい頃から情熱を燃やし続けているものが2つあります。サッカーと宇宙です。どちらも、謎に満ちている。周囲にある身近なものは理解できても、すべての事象を網羅することはできない。だから惹きつけられるんです」

 そう熱弁するキエーザは、9月末のCLグループリーグで昨季の欧州王者チェルシー相手に1-0の勝利を呼び込む決勝弾を叩き込んだ。監督OBのザッケローニが「相手の守備を引き剥がし、数的優位を作り出す。ユーベにとってもはや不可欠の選手」と舌を巻くように、大勝負での強さが際立つ。

 お坊ちゃん育ちらしくない、熱いガッツもキエーザの売りだ。ハングリー精神に欠ける「2世プレーヤー」というレッテルは、彼には当てはまらない。

 どこか“真面目すぎる狂気”を匂わせながら、キエーザは宇宙の謎とサッカーの神秘へと真っ直ぐに突き進む。

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