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イタリア中の母たちが頬を緩める“驚くほど行儀の良い出来杉君” 「2世代表」フェデリコ・キエーザが放つ異質なオーラ
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/11/02 11:00
「2世プレーヤー」として注目を集めるキエーザ。今時の選手とは異なる真面目な好青年はどのように育ってきたのか
「いつかは確実に出ていく選手」と皆が納得
ある伊紙はキエーザを指して「あらゆる母親がこうあってほしいと望む理想の息子」と表現した。たとえサッカーをしていなくても、娘が「彼氏よ」とキエーザを連れてきたら、世の親たちは文句のつけようがないだろう。
“ダイブ癖”への批判はあったが、キエーザはデビュー後に大きな躓きもなく、そのままフィオレンティーナの生え抜きエースとして本格的に活躍を始めた。
だから当然、彼はフィレンツェのアイドルとして誰よりも愛されている――筆者はそう思っていた。
「いや、ところがそうでもないんだ」
3年前の初夏、たまたま一緒に仕事をしたフィレンツェのラジオ記者に、チームの一番人気は誰かと尋ねたところ、当時の中盤の要だったMFジョルダン・ベレトゥ(現ローマ)という意外な名前が返ってきた。
「生え抜きのキエーザじゃないのか?」と理由を質したところ、彼は諦め顔で首を振り、フィオレンティーナの複雑なファン心情を説明してくれた。
曰く、「キエーザの才能は少年時代からずば抜けていた。彼のような選手はタイトルを懸けて争うクラブでプレーするべきだ。もし高額オファーが来ればクラブは断れないし、彼のキャリアのためにも断るべきじゃない。だから、どれほどフィレンツェで活躍しても、どれほど寂しくても、『いつかは確実に出ていく選手』と皆が納得ずくなのだ」と。
親の七光りが通用するほどプロの世界が甘くない
無論、純粋な子供ファンからの人気は高い。だが「ゴール裏スタンドからの声援が最も大きいのは、苦しい中盤で汗を流して全力を尽くしているベレトゥだ」とも彼は言った。古豪に引き留めておくには、キエーザは華がありすぎたのだ。
デビューの前後にキエーザが地元メディアから「フィオレンティーナの“トッティ”になりたいか」と問われて「そうですね」と応じたことはある。ただ、自分から進んでそう発言したわけではない。
聡明なキエーザは、自分がいつか芸術の都から出ていくことを予見していたのだろう。
イタリアの育成年代を見渡せば、「2世プレーヤー」の数は結構なものになる。
率直な話、有名な親の威光による忖度は断じてない、とは言えない。ただし、七光りが通用するほどプロの世界が甘くないことは、選手も親もわかっている。