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《楽天ドラフト1位》吉野創士(昌平)“涙のサプライズ指名”のウラに「野村イズム」を継承する2人の存在

posted2021/10/27 17:00

 
《楽天ドラフト1位》吉野創士(昌平)“涙のサプライズ指名”のウラに「野村イズム」を継承する2人の存在<Number Web> photograph by Mamu Takagi

最後の夏、埼玉大会の決勝で敗れて涙を流す昌平・吉野創士。甲子園に一度も出場することはできなかったが、可能性を信じた沖原スカウトはその評価を変えなかった

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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 今秋のドラフト1位指名選手の中で実績や知名度は最も劣るかもしれない。甲子園の出場も一度も叶わなかった。それでも高校通算56本塁打を放ったことからも分かるように、しなやかなスイングで打球を運ぶ技術は一級品だ。

 そんな類まれな才能を信じてきた監督とスカウトの物語。サプライズ指名と言われたドラフト1位のドラマを振り返りたい。

涙のドラフト1位指名

『第一巡選択希望選手 東北楽天 吉野創士 外野手 昌平高校』

 そのアナウンスを聞いて、吉野は涙を流した。これには黒坂洋介監督も「吉野が天を仰ぎながら泣いていました。その顔を見たら僕もね。親心ですね」ともらい泣き。

 同校として初のドラフト指名が、予想を上回る喜びの結果となった。

 吉野と黒坂監督の出会いは、中学生の頃。東京城南ボーイズの練習に訪れた際、大枝茂明監督から紹介してもらった選手の中の1人に吉野がいた。その姿を見てすぐさま自身の現役時代が思い返された。

 黒坂監督は昌平高校の前身である東和大昌平高校のOBで、駒澤大進学後に野手へ転向。野村克也監督率いる社会人野球の強豪・シダックス(現在は廃部)で活躍した右の強打者だった。野村イズムを継承する中で野球観や個性を伸ばし、先輩・後輩関係なくチーム一丸で戦うことに重きを置いてきただけに、チームにフィットする自信があったという。

「僕と背丈が同じくらいで良いスイングをしている子がいるなと思って、監督に“ぜひ”と言いました。打球を力で運ぶというより、ボールを乗せていくタイプで、そういったところも現役時代の僕と似ているところを感じました。また、ガツガツした感じじゃないからこそ、ウチに預けてもらえないかという話をしました」

 そんな黒坂監督の思いは、甲子園常連校や優勝経験校からも誘いが来ていたという吉野にも届く。両親とも相談し、「のびのびと野球ができて、かつ甲子園初出場を狙える高校」として昌平を選んだ。

【次ページ】 楽天・沖原スカウトとの出会い

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