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《楽天ドラフト1位》吉野創士(昌平)“涙のサプライズ指名”のウラに「野村イズム」を継承する2人の存在
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byMamu Takagi
posted2021/10/27 17:00
最後の夏、埼玉大会の決勝で敗れて涙を流す昌平・吉野創士。甲子園に一度も出場することはできなかったが、可能性を信じた沖原スカウトはその評価を変えなかった
1位指名の瞬間、嬉し涙を流した吉野と黒坂監督にとって、その球団が楽天だったこと、そして担当スカウトが沖原だったことも喜びを倍増させた。
「沖原さんが一番来てくれていましたから。他球団のスカウトの方からも“沖原さんが担当なら安心だね”と言われました」(黒坂監督)
沖原スカウトは2000年に日本代表としてシドニー五輪に出場し、その年の秋に阪神から6位指名を受けてプロ入り。2003年には規定打席不足ながら打率.341を放って、リーグ優勝に貢献し日本シリーズにも出場した。だが翌年、鳥谷敬の加入もあって出場機会が激減し、2005年シーズン途中から活躍の場を楽天に移した。奇しくも、沖原スカウトも阪神と楽天で野村監督の指導を受けている。
現役引退後はアカデミーのコーチ、ファームディレクター、コーチを経て2015年からスカウトに着任。茂木栄五郎、田中和基、早川隆久らを担当してきた。
「絶対に心が折れないように突き詰めて練習して欲しいですね。僕がプロで大した選手になれなかったからこそ余計にそう思います。誰しもが引退してから思うのかもしれないですが、“もっとあの時しっかりやっとけば……”という思いがありますから」
「担当選手は自分の子供のようなもの」と、エールには熱がこもる。
金本知憲から学んだ一流の姿勢
また、現役時代に超一流選手の姿を間近で見てきた経験も生きる。沖原スカウトは金本知憲の姿に驚いたという。
試合が終わってからも黙々と練習やトレーニングに励み、食事も2時間ほどかけてゆっくり食べるなど、野球のことに関しての手間のかけ方は群を抜いていた。
吉野にもそんなチームの中心選手となって欲しいと願っている。
「現状に満足せずに上に上にという気持ちを持って欲しいです。プロで一番大事なのは、そこだと思います。何位で入ろうと自分でどれだけやれるかどうか。練習しない選手はやっぱり伸びませんし、凄い選手というのは誰に言われるでもなくやっていますからね」