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《楽天ドラフト1位》吉野創士(昌平)“涙のサプライズ指名”のウラに「野村イズム」を継承する2人の存在
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byMamu Takagi
posted2021/10/27 17:00
最後の夏、埼玉大会の決勝で敗れて涙を流す昌平・吉野創士。甲子園に一度も出場することはできなかったが、可能性を信じた沖原スカウトはその評価を変えなかった
強化のスピードを上げる同校の中でもその存在はすぐに抜きん出て、1年春から公式戦に出場。さらに2学年上にプロ注目左腕の米山魁乙(現・駒大)がいたことで、吉野は早くからスカウトの目に留まることになる。
楽天の沖原佳典スカウトは高1時の姿に一目惚れし、そこから長い時間をかけて追い続けてきた。
「米山の視察の時に“この選手もいいんですよ”と紹介されて、すぐに天性の素質をスイングから感じました。投球に対してバットを衝突させるのではなく、バットのしなりと柔らかさで打球を運んでいく。力感のないスイングなんだけどバットのヘッドが走る。バットの使い方が上手だなという印象でした」(沖原スカウト)
黒坂監督は早くからチームの主力になった吉野に“自覚を持つこと”を促し続けてきた。吉野自身も「そのおかげで大きく成長することができました」と、心技体でグングン力を伸ばし、注目度を高めていった。
昨年7月に行われた聖望学園との練習試合では、多くのスカウトが見守る中、中堅121メートルの上尾市民球場のバックスクリーンに飛び込む本塁打を第1打席で放つなど、大きなインパクトを何度も残した。
評価を落とす他球団スカウトもいた
沖原スカウトは吉野の調子が悪い時期もしっかりと見続けてきた。3年夏は痛めた腰の影響もあって思うような結果が残せず、チームも甲子園初出場をあと一歩で逃す準優勝。中には評価を落とすスカウトもいたが、沖原スカウトの評価は不変だった。
大会前の練習試合で凡打が続いた時にはこんなことを語っていた。
「今日は強引に打ってしまっているけど、素質は良いですから。リストが強くてスイングが強い。広角に長打が打てる右打者は貴重。体ができてくればもっと飛ばせるし、走攻守に伸びしろがあります」
その後も「良い時も悪い時も見てきましたから、夏の結果で評価がどうこうということはありませんでした」とずっと吉野の可能性を信じてきた。
とはいえ、ドラフト1位となると球団の方針もある。「1位は投手で」となれば2位以下で狙い他球団が指名しないことを願うほかなかったが、「野手で行く」との方針になり、「それならば吉野を1位で」と会心の単独指名に至った。