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スケートアメリカ3位、世界王者ネイサン・チェンに何が起きたのか? 4ループ挑戦が意味するもの「できるのは、先に進むことだけ」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/10/26 11:01
スケートアメリカでは総合3位に終わったネイサン・チェン。しかし王者はすでに北京五輪を見据えている
なぜチェンは4ループに挑んだのか?
チェンはこの大会のフリーで冒頭に持ってきたジャンプは、普段安定して跳んできた4ルッツや4フリップではなく、4ループだった。
2017年のUSクラシックインターナショナルで初めてチェンがこの4ループを成功させた時、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トウループの5種類の4回転を試合で成功させた世界唯一のスケーターになった。でもこの時以来、そこまで得意ではないという4ループを試合に入れてきたのは数えるほどである。
ではなぜこの試合で、久しぶりに4ループに挑んだのか。
チェンは平昌オリンピックのSPでジャンプミスを重ねて17位という予想外の位置におかれたとき、フリーでは4回転を6回の構成で挑んだ。フリップとトウループを2回ずつ、そしてルッツ、サルコウである。ところが平昌オリンピック後、ジャンプへの比重がエスカレートしてきていることを懸念したISUは、プログラムの中で重複できる4回転は1種類のみ、とルールを変更したのである。
1度のプログラムで4回転を6回跳ぶためには、5種類の4回転を跳ぶしかない。そのためにチェンは、あえて久しぶりにループに挑んだのだった。
新フリー、モーツァルトメドレーは美しいピアノのメロディから開始した。出だしの4ループはきれいにきまった。だが気が緩んだのか、次のルッツが2回転に。その後4フリップ+3トウループは成功するも、次のサルコウが再び2回転になった。
明らかに、我々が過去3年間見慣れてきたチェンではなかった。
それでもプログロムは後半に差し掛かり、3アクセル、4トウループ+1オイラー+2フリップ、そして4+3トウループは成功させた。4回転を2度パンクさせても、成功した4回転がまだ4つもあったというのは、紛れもなくチェンならではである。