オリンピックPRESSBACK NUMBER
「大輝が鉄棒の金メダルを掛けてくれたので今度は…」内村航平→橋本へ“継承の儀式”に込めた思いとは《新旧王者が世界体操決勝へ》
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKYODO
posted2021/10/23 11:00
いま内村航平と橋本大輝は東京五輪後、初めて同じ大会(世界選手権)に出場している。新旧エースがそろう種目別鉄棒の決勝で、2人はどのような演技を見せてくれるか
内村が最後の着地まで通し切ると、橋本は屈託のない三日月の目で笑顔を浮かべ、拍手を続けた。橋本自身は予選の鉄棒で14.633点(Dスコア6.5、Eスコア8.133)をマークして首位通過。ただし、こちらも着地で弾むなど、内村と同様でまだまだ点を上積みできる箇所がある。
「決勝では直接対決になると思うんですけど、やっぱり内村選手も僕も、自分の演技を出すことが目標だと思います。(鉄棒は)最終日の最終種目で、しっかり盛り上げていきたい」
対する内村はこう話す。
「(予選で)良かった部分は正直一個もないです。本当に意地をみせたというか、どうなってでも、最後の最後まで落ちないでやり切るということを、演技として出せたかなというだけです」
反省が口を突いたが、気持ちはすでに切り替わっている。
予選の演技後、内村は観客席にサイン入りの日本代表Tシャツを投げ込み、スタンドを沸かせた。開催地は生まれ故郷である北九州市。会場は子供の頃からさまざまな試合を行なってきた北九州市立総合体育館。日本政府の「ワクチン・検査パッケージ」実証の対象として観客席をフルにし、連日約2000人の観客が訪れている。「生まれ故郷でもあるし、有観客だし、そういったことはしっかりやらないと」と話すように、内村には感謝を演技に込めたいとの思いがある。
「金メダルを僕から大輝に掛けてあげたんですよ。『継承してくれました』と」
8月のインタビューで聞いた話には続きがある。
「あの時、大輝は金メダルを2つ出してきたんですよ。1つは種目別鉄棒。もう1つは個人総合。どうやって見分けるか? メダルの縁のところに種目が書いてあるんです。最初は大輝が鉄棒の金メダルを僕に掛けてくれたので、今度は個人総合の金メダルを僕から大輝に掛けてあげたんですよ。『継承してくれました』という意味合いを込めて」
内村はロンドン五輪とリオデジャネイロ五輪で男子個人総合を連覇している。橋本の東京五輪金メダル獲得によって、五輪の男子個人総合は日本勢が3大会連続で制したことになった。「世界一のオールラウンダー」の継承の儀式はもう済ませている。あとは、東京五輪の種目別鉄棒決勝でかなわなかった“そろい踏み”の舞台で、互いに自分らしい演技をするのみだ。
「予選をやってみて、結果はもうどうでもいいと思いました。僕はもう残せるだけの結果を残してきたし、お客さんがいる中でしっかり演技をやって盛り上がってもらうことが、スポーツのあるべき姿だなと感じています。大輝と一緒に、決勝も自分が今できることを精一杯やりきりたい」
新旧エースがそろう種目別鉄棒の決勝で、2人はどのような演技を見せてくれるか。最高の光景を目に焼き付けたい。