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《巨人一筋17年で現役引退》「困ったときの亀ちゃん、で生きると決めた」亀井善行はなぜFA権を行使しなかったのか
posted2021/10/24 11:02
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hideki Sugiyama
亀井善行について、鮮烈な記憶としてあるのが2019年の日本シリーズだ。パ・リーグの絶対王者ソフトバンクホークスを相手に連敗し、希望もプライドも砕かれてしまいそうな東京ドームで、その空気を一変させた。怪腕バンデンハークの剛球をライトスタンドへ。巨人軍の意地を叫ぶように2本の矢を放った。どれだけ追いつめられても、最後に亀井がいる。そう印象づけた象徴的なシーンだった。
「あのシーズンは毎日体の調子が良かったんです。年取っているんですけど、体のキレがよくなっていた。それまで僕は怪我もあって、1年間ずっと試合に出られたことはあまりなかったんですけど……」
38歳で迎えた2021年シーズンの開幕を目前にして、束の間、野球人生を振り返りながら、思わず亀井は呟いた。
「でも、まあ……、本当に自分でもよく生き残っているなと思います」
本人にその意識はないのだろうが、言葉の裏に、ジャイアンツというチームで生き続けることの厳しさが滲んでいた。
「とんでもないところにきてしまったな……」
2005年、亀井は中央大学から巨人軍へ入団した。ドラフト指名順は4位だった。
内外野どちらもこなせる守備力と打撃センスによって、1年目から東京ドームの照明を浴びることができたが、そこでいきなり現実を突きつけられた。
「入った時は三拍子そろった選手になりたいと思っていたんですけど、あれは1、2年目の試合ですかね、中日の川上憲伸さんのストレートを芯でとらえた打席があったんです。自分ではそのつもりだったんですけど、球の威力にバットの方が押されてしまった。自分の力のなさを痛感すると同時に、とんでもないところにきてしまったな……と思いました。特にバッティングでは相当な努力をしないとダメだなと」
プロの世界における、自らの序列を悟った亀井はそこから、流した汗によって這い上がるイメージを描いた。