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「僕は目を背けようとしていたので」斎藤佑樹が引退試合後に語った“第二の斎藤佑樹”への助言とは《ドキュメント“最後の2日間”》
text by
田村航平(文藝春秋)Kohei Tamura
photograph byKYODO
posted2021/10/18 11:03
引退セレモニーで胴上げされる斎藤佑樹。プロ11年、89試合15勝26敗。「僕が持っているのは最高の仲間です」と言葉を残してユニフォームを脱いだ
10月17日の札幌は前夜の風雨が止み、よく晴れていた。
午前9時、引退記者会見に臨んだ。終始穏やかな表情で、「ファイターズでプレーできて良かった」と語る。写真撮影では青いハンカチで顔を拭うポーズも披露し、約14分間の会見は笑いに包まれて終わった。
午後2時、プレーボール。上沢が6回3失点と試合を作り、ファイターズが4対3と1点リードのまま7回に入った。
午後4時45分、その時が来た。上沢に代わって、斎藤が現役最後のマウンドに上がる。上沢は自己最多12勝目の権利を持っていた。登板前、斎藤は上沢に「俺が打たれて勝ちを消しちゃったらごめんね」と断り、上沢は「全然気にしないでください。今日はそんなこといいんです」と返している。
だが、斎藤は後輩の、チームの勝利のためにも打たれるわけにはいかなかった。
打席にオリックスの1番・福田周平を迎え、初球はストライク。その後、フルカウントとなり、7球目、外いっぱいを狙ったツーシームはわずかに外れる。斎藤に残っていた投手としての打たせまいとする本能が、そのボールを投げさせたように見えた。
斎藤の野球人生は、真剣勝負の末のフォアボールで幕を閉じた。その瞬間は悔しそうな表情を見せたものの、すぐに吹っ切れたような笑顔でマウンドを降りる。斎藤がグラウンドにいた時間は、5分に満たなかった。
「僕が持っているのは最高の仲間」
ファイターズが逃げ切って勝利を収め、午後6時、斎藤の引退セレモニーが始まった。
グラウンドにひとり、スポットライトを浴びて立つ。プロになったことを実感した球場で、プロとしての終わりを告げるスピーチを行った。
「斎藤は持っている、と言われたこともあります。でも、本当に持っていたら良い成績も残せたでしょうし、こんなに怪我もしなかったはずです。ファンの皆さんも含めて、僕が持っているのは最高の仲間です」