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「オレたちがバカに見える」「本当に腹がたつ」ライバルが戦慄する“普通じゃない”勝利を久々披露、マルケスの完全復活は近い
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2021/10/07 11:01
現在のポイントリーダーであるクアルタラロ(左)に4秒以上の差をつけて勝利し、復調ぶりを見せつけたマルケス
その理由は、マルケスがバイクのシートに腰を下ろして乗っている時間が少なく、バランスを取るために常に身体を動かしているからだ。その身体能力の高さは類を見ない。現在のMotoGPマシンは、2ストロークエンジン時代にライダーがアクセルやブレーキで行っていた操作の大部分をエンジン・コントロール・ユニット(ECU)が補っている。それだけライディングに集中できることになるのだが、その恩恵をマルケスほど生かしている選手はいないのではないか。
ただ、今年のホンダRC213Vはホンダ勢全体でも転倒が多く、車体のセットアップに苦戦している。マルケスの場合はさらに右腕のパワー不足も加わり、転倒の多さにつながっていたのだろう。それがシーズン後半戦に入ってマシンのセットアップが進み、加えてだんだん身体が動くようになり、得意のサーキットで本来のパフォーマンスに近い走りを披露することになった。
完全復活はもうすぐ
今大会の優勝では、マルケスが久しぶりに「他のライダーが普通に見えてしまう」走りをした。思えば、ホンダに乗っていたころのカル・クラッチローが、こうコメントしたことがある。
「マルクの走りを見ていたら、オレたちがバカに見えるよ」
今年のアラゴンGPでは、マルケスがフランチェスコ・バニャイアと熾烈な優勝争いを繰り広げて2位になったレースを見たMoto2の小椋藍が、こうつぶやいた。
「まだ身体が完璧じゃないのにあんなレース見せられたら、本当に腹がたちますよ」
つまり、ライダーたちにとって本来のマルケスの走りには、”オレは何をやっているんだ”と思わせる絶対的な速さがあるのだ。
マルケスの右腕は着実に回復しているが、100%の状態になるにはまだまだ時間がかかりそうだと心配する声も多い。だが今回のレースは、ライバルを脅かすマルケスの走りが完全復活する日が近いことを教えてくれた気がした。