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「那須川天心ロス」を払拭するのは誰だ? 試合前にトイレで号泣…“超ビビりファイター”原口健飛23歳が「俺しかおらん」と覚醒した日
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2021/10/05 17:01
9月23日のRISEにてタイのタップロンに勝利した原口健飛。“次の那須川天心”候補である
“生涯初のダウン”を喫したが…
当初この横浜大会で原口はキックではヨーロッパNo.1のプロモーションGLORYの世界フェザー級王者ペットパノムルン(タイ)との王者同士の一騎討ちを予定していた。しかし緊急事態宣言の最中、ペットパノムルンの来日が難しくなったため、在日タイ人の大物タップロンと対戦することになった。
タップロンは広島でジムを経営しながらリングにも上がるベテラン。現在41歳と選手としては高齢ながら、今年7月にはあの大和哲也をヒジで切り裂いてTKO勝ちしている生きる伝説だ。
果たして第2ラウンド、大観衆をどよめかせたのはタップロンの方だった。相手の両手をホールドするような形の首相撲から飛びヒザ蹴りで先制のダウンを奪ったのだ。RISEルールはヒジ打ちは禁止。タイ人が得意とする首相撲はワンキャッチ・ワンアタック(一回の掴みに付き、一回の攻撃のみ)まで認めている。タップロンはそのルールを最大限に活かしたうえでダウンを奪う。
意外にも原口にとって今回のタップロン戦が初めてのタイ人との試合だった。昭和、そして平成の途中まで日本人キックボクサーが引きずっていたムエタイ信仰を原口は持ち合わせていない。タイ人がムエタイだけに固執することなく、ヒジなしのいわゆるキックボクシングルールに進出した現在、首相撲のアリ地獄にハマることもない。ただ、そのアリ地獄にハマる代わりにタップロンはキックボクシングルールでムエタイの怖さを原口に味わわせたのか。
「首相撲で掴まれた瞬間、(アゴにヒザ蹴りを打たれる)隙間が見えていた。これがムエタイかと痛感しました。首を押さえ込む力は日本人ではなかった」(原口)
しかも、原口にとっては生涯初のダウンだった。RISEの本戦は3分3ラウンド。ダウンによる-2ポイントを短いラウンド数で奪い返すのは至難の業だ。場内がヒートアップしたことはいうまでもない。
「ダメージはなかったけど、ショックでした。『うわっ、ダウンした』みたいな」
「RISEを引っ張って行くのは俺しかおらん」
それでも、倒されたあとの原口は極めて冷静だった。焦って大振りを連発したり、無駄な動きをして必要以上にスタミナをロスすることもなかった。
「RISEを引っ張って行くのは俺しかおらん」という自負があったからだ。
「自分に自信があったので、そのあとも落ち着いて試合をすることができた」
ダウンを喫したことで、逆に原口の心に火がつく。2R終了間際、原口が後ろ回し蹴りを放つと、タップロンは明らかに効いた素振りを見せた。