濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「男子選手に殴られ…」「給料未払い生活」常軌を逸した環境を乗り越え、朱里がスターダムで“メジャータイトル”を制覇するまで
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/10/02 11:00
スターダムのリーグ戦、5★STAR GPにて悲願の初優勝を果たした朱里
デビュー当初は雑用の日々…チケットは一人で100枚売った
昨年9月に亡くなった母親も、きっと喜んでくれただろう。そう思うとリング上で涙が溢れた。フィリピンから日本に働きに来た母は、離婚後ひとりで自分を育ててくれた。大会3日後にインタビューした際も「家出したり、大好きな母なのにたくさん迷惑かけて、泣かせてしまって......」と言葉を詰まらせた。
「格闘技でもプロレスでも、頑張ってこれたのは母に喜んでもらいたいという気持ちがあったからだと思います。それとファンの人たち。デビューしてから13年間、応援してくれる人たちがいるんです。その人たちに“応援してよかった”と思ってもらえる選手になりたくて」
リーグ戦に優勝した朱里は、専門誌『週刊プロレス』の表紙を飾った。単独では初めてのことで「夢の一つが叶った」と喜んだ。
「本当のことを言うと、以前は週プロの表紙なんて夢のまた夢というか。夢としても考えられなかったです」
デビューした『ハッスル』は経営が傾き、最初の2カ月しか給料が出なかった。新弟子として練習し、膨大な量の雑用をこなし、その上アルバイトもしなければ生活できなかった。その後、所属した団体では自ら営業してチケットを売った。インディーはそういう世界なのだ。1人で100枚売った大会もある。
「だからフロントの大変さも理解できます。試合と練習に集中できるスターダムのありがたさ、幸せも人一倍感じてますね」
かつて所属したのは男女混合の団体で、男子とも闘った。もちろん練習も男子とだった。
「ミックスドマッチもたくさんやりましたね。女子団体ではトップ戦線でも闘ったしコミカルな試合も。リングで踊ったり、とにかくなんでもやりました(笑)。女子の団体はほとんど出てます。男子の団体もかなり上がらせてもらいました。その経験が自分の基盤になっているのは間違いないです。経験というのは財産だなって」