濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「男子選手に殴られ…」「給料未払い生活」常軌を逸した環境を乗り越え、朱里がスターダムで“メジャータイトル”を制覇するまで
posted2021/10/02 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
“モノが違う女”は泣き虫だ。
「泣き虫だし気にしいだし、すぐ落ち込むんです。試合の時も自信満々ではないですね。勝つ気でやるけど、もし負けたらというのがいつも頭にあります」
言葉の主はスターダムの朱里。もうすぐデビュー13周年を迎えるプロレスラーだ。エンタメプロレスの『ハッスル』からスタートしてさまざまな団体に所属し、いくつものタイトルを獲得してきた。
誰にも真似できないキャリア
立ち技格闘技イベントKrushで初代女子チャンピオンになり、その後MMA(総合格闘技)で老舗パンクラスのベルトを巻いた。世界最大の格闘技団体UFCにも参戦している。現時点で、そのキャリアは誰にも真似できない偉業の域。キャッチフレーズ通り、まさにモノが違う。
それでも、昨年秋に女子プロレス最大手のスターダム入団を果たした際には覚悟が必要だったという。プロレス界では、まだ万人が認めるような結果を残せていないと感じていたからだ。どれだけ結果を出しても、それは女子プロレス界、インディーマット界の“外”に届くものではなかった。少し前までは女子プロレス業界自体の景気もよくなかった。だから新日本プロレスと同じブシロード傘下になったスターダムで、頂点の“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムを狙うのは大きな挑戦だった。
その一方で、格闘技での実績がプロレス界にうまく伝わっているとも思えなかった。Krushでは後にK-1の顔となる武尊と同時期に活躍したのだが、たとえば“武尊と同じ団体のベルトを巻くこと”と“女子プロレス界の横綱・里村明衣子に勝つこと”の意味の両方を理解し、同列に評価してくれるファンや関係者はそれほど多くなかった。
そんな朱里が、スターダムで「大きな結果」を出した。6人タッグ、SWA世界王座、タッグ王座に続いて大規模なリーグ戦『5★STAR GP』で優勝。決勝戦が行なわれた9月25日の大田区総合体育館、コロナ対策座席数とはいえ満員の会場で、朱里は「私のプロレス人生の中で大きな結果を出すことができました」と感激に浸ったのだった。スターダムのリーグ戦優勝は、これまで手にしたことのない“メジャータイトル”だった。