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「男子選手に殴られ…」「給料未払い生活」常軌を逸した環境を乗り越え、朱里がスターダムで“メジャータイトル”を制覇するまで 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2021/10/02 11:00

「男子選手に殴られ…」「給料未払い生活」常軌を逸した環境を乗り越え、朱里がスターダムで“メジャータイトル”を制覇するまで<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

スターダムのリーグ戦、5★STAR GPにて悲願の初優勝を果たした朱里

 男子も含めた年間ベストバウト候補にも挙げられる林下とのタイトルマッチを引き分けで終えると、ベルトを逃した悔しさで朱里は号泣した。他の選手の活躍に嫉妬してしまうのだと言ってもいた。スターダムに来たのはいいが、このまま自分は埋もれてしまうのか。そんな危機感があった。

「凄く悩みました。プロレスラーであるからには、自分が一番輝きたい。そのためにはどうしたらいいんだろうって」

 今まで以上にプロレスについて考えた。たとえ前半戦に組まれた試合でも、タイトル戦線とは関係のない試合でも、すべての試合が全力だった。自分が力を発揮するだけでなく相手のファイトスタイルや実力を分析して「どうしたらこの人とお客さんの心に残る試合ができるだろう」と試行錯誤した。それを怠ったら、すぐに置いていかれてしまう。自分が実績のある“大物”だなどとはまったく思えなかった。母への想いも若い選手への嫉妬も、すべて隠さずさらけ出した。

「自分が生きている姿、その全部をプロレスに込めたい」

朱里がスターダムの頂点に立てば…

 “モノが違う女”、タッグパートナーのジュリアが言う“スターダムの守護神”は泣き虫だったのだとみんなが知った。尊敬されると同時に愛される存在になった朱里はリーグ戦優勝を掴み、また泣いた。観客からの拍手は鳴り止まず、どこまでも温かかった。赤いベルト挑戦は12月29日、両国国技館でのビッグマッチ。10.9大阪城ホール大会では林下に彩羽が挑み、その勝者と闘うことになりそうだ。

 挑戦の場に大阪城ではなく12.29両国を選んだ理由の1つは、しっかり期間を置いて万全の状態で闘うため。ここまできたら、もう焦りはない。格闘技やボクシングが話題になる年末に、女子プロレスで勝負をかけたいという気持ちもある。

「年末に赤いベルトを巻けば、2022年の年明けと同時に“朱世界”をスタートすることもできますし」

 朱里はこれまで何度も、自分が赤いベルトを巻いてスターダムに“朱世界”をもたらすとアピールしてきた。それがどんな世界なのかは、まだ語られていない。チャンピオンになるまで具体的なことは口にしないということだろう。

 ただ朱里がスターダムの頂点に立てば、自ずとこれまでとは違う光景が見られるはずだ。MMAの首都・アメリカの金網も、200人で超満員になる板橋グリーンホールのリングも彼女は知っている。自分で1枚ずつチケットを売る苦労も、何階級も上の男子選手のパンチがどれだけ痛いかも、業界トップのベルトを巻く難しさも、20人参加のリーグ戦で優勝する喜びもだ。ありとあらゆる闘いの果てに“朱世界”はある。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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