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「本当しんどかったですもん、練習(笑)」ボクシング入江聖奈が明かした競技引退宣言の本音…中学時代にお母さんからもらった手紙とは?
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/09/16 11:02
女子ボクシング界に初めて金メダルをもたらした入江聖奈(日体大3年)。押し出すことを意識して磨いた左ジャブをカメラに向けて披露した
――「今までで一番緊張した試合」をどう乗り越えたんでしょう?
ずっといやだ、いやだと思いながら過ごしていましたし、できたら試合をしたくなかった(笑)。でも、試合が始まっちゃえば勝手に闘争心は入りますし、そんなこと考える余裕もないので、乗り越えるというよりはありのままにという感じ。基本的には受け入れる派で、自分には逆らわないです(笑)。
――そういう考えはずっと持っていたものなんですか?
いや、大学に入ったぐらいからですかねえ。高校まではどこか神経をピーンとさせてたところはあったと思います。でも思春期を抜けたあたりからちょっと余裕が出てきたんだと思います、人生において(笑)。
たぶん高校生までの自分は、取材をしていただいた時でも優等生みたいな発言をしていたと思うんです。たぶんこういうことを求めているのかなとか、そういうことを考えていました。でも大学生になってから、ちょっと本音で話してみたら良いように取り上げてくださることを知って(笑)。そこからあまり考えすぎないように話すようになった気はします。
試合後インタビューのイメトレ
――試合直後の『ボクシングはこれで終わりです』や戦術を問われた時の『強気のツノガエル作戦』といったコメント力も際立っていました。印象的だったのは勝ち進んでいくたびに『日本ボクシングの歴史の扉が5ミリ開いた』『5センチ開いた』と、心情を表現していたことです。ああいう言葉は試合後にパッと出てくるんですか?
いや、イメージトレーニングをいっぱいするんです、試合の後のイメトレ(笑)。
――試合ではなく、試合後の?(笑)
はい。とくに考えるのは負けたときで。記者の皆さんもたぶん気をつかってくれるだろうなと思うので、重たい空気にならないように、どういう感じで答えようかなとか、考えていますね。
――もしや、銀メダル用のコメントも用意していた?
(決勝前に)考えてました(笑)。「ここまできた自分をほめてあげたい」と言った後に「金メダルの夢は、並木(月海/フライ級)さんに任せて、日本女子を盛り上げていってくれたらうれしいなと思います」で締めようかなと思ってました(笑)。
あ、でもさすがに金メダルバージョンはあんまり考えてなかったですね。優勝した時はもうノリに任せようと思っていたかな。ただ「何ガエルの気分ですか?」と聞かれると思っていたので、そこはトノサマガエル一択だろうと思っていました(笑)。
――それだけメダルへ強い思いがあったということの裏返しでもありますよね?
やっぱりメダルを獲る、獲らないで、メディアでの取り上げられ方も全然違うとはわかっていたので。並木さんはメダルを獲ると思っていましたから、私だけ獲れなかったら何事もなかったみたいになっちゃう。そうなったらすごく虚しいと思っていたので何とかメダルを獲りたかったです(笑)。
最後は気持ち「言霊を信じて」
――少し試合のことも聞かせてください。相手が強くなるにつれて、セコンドのアドバイスを受け入れながらうまくアジャストしていたように見えました。そういう適応力はこれまでの経験で培ったものなのでしょうか?
いや、適応力はないと思いますねえ。1回リズムが崩れちゃったらけっこう焦るところはありますし。ただ、オリンピックに関しては相手によって変えていくというよりは、自分のボクシングを貫くというところにテーマを置いていたので。しっかり動いて、得意のジャブとストレートがヒットできたから金メダルまで辿り着けたと思っています。
――ネスティー・ペテシオ(フィリピン)との決勝戦はどんな戦略で臨んだのでしょう?
手の内というか、ベタ足の剛腕ファイターだということはわかっていました。逆に言えば追い足もないので、しっかりジャブを突いて、足を使ってストレートを打ち込む、の繰り返しでいこうと。あとは、簡単に下がったらたぶん相手が調子づいてボンボンとパンチをもらうと思ったので、相手を下がらせるイメージを強く持っていました。
でも、ちょっと難しい試合になりましたね。スタミナはきつくなかったのですが、2ラウンド目は完全に取られていましたし、クリンチも多かった。ほんとに自分の技術不足が出たと思います。
――3ラウンド目、どう流れを変えようと思っていたのですか?
もう勝負だと思ったので、技術っていうよりはもう気持ち。金メダルを獲りたいとずっと口にしてきたので、その言霊を信じて(笑)。