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〈凱旋門賞“2年連続”2着〉現地前哨戦での好走がオルフェーヴルの偉業を生んだ…知られざる「鼻先蹴り上げ事件」が示す“日本馬勝利の条件”
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byAFLO
posted2021/09/12 06:00
2013年の凱旋門賞で2年連続の2着に輝いたオルフェーヴル
「60日を超えて海外に滞在した馬に対しては帰国した際の着地検疫の期間が90日と長くなります。とはいえ遠征後はすぐに実戦に走れるわけではなく、まずは輸送による疲れを取ってから徐々に仕上げ直す期間が必要です。それらを考慮すると中2週で本番に臨める前哨戦デーを使うのが、日本馬にとっては得策だと思えます」
さて、先述したように過去に凱旋門賞で2着に好走した延べ4頭の日本馬はいずれも前哨戦デーのプレップレースを走っていたわけだが、その内訳は全てフォワ賞で好走をしている。エルコンドルパサーとオルフェーヴルの2度はいずれもフォワ賞を制していたし、ナカヤマフェスタもフォワ賞で2着だったのだ。
今回はその中から最後に善戦したオルフェーヴルの前哨戦におけるエピソードをお届けしよう。
オルフェーヴルに起きた「鼻先蹴り上げ」事件
2013年9月。フランス最大の調教施設を有すシャンティイ。その中でも広大な馬場のあるエーグル地区で、オルフェーヴルはフォワ賞へ向けた1週前追い切りを行なう予定でいた。そのために早朝から姿を現したのが、レースでも騎乗するクリストフ・スミヨン騎手。前年もこのステイゴールド産駒の三冠馬で凱旋門賞を2着したフランスのリーディングジョッキーだ。
スミヨン騎手を乗せたオルフェーヴルは、日本から帯同馬として現地入りしていたブラーニーストーン(栗東・池江泰寿厩舎)に誘導をさせ、すぐ後ろを歩いていた。この時、ブラーニーストーンの手綱を取っていたのは当時、フランスへ遠征していた藤岡佑介騎手。ぴったりと後ろにつけるスミヨン騎手に声をかけようとしていた。
「フランスではレースでも調教でも縦列でぴったり後ろにつけるのが当たり前で、スミヨンもそういう感じでくっついてきました。でも、ブラーニーストーンは尻っ跳ねをするような面があるので『少し離れてくれ』と言おうとしたんです」
しかし、声をかけようとした正にその瞬間、一瞬早く危惧していた事態が起きた。ブラーニーストーンが後ろ脚を蹴り上げ、その脚先がオルフェーヴルの鼻先をかすめたのだ。
遠くからその様を見ていたのが三冠トレーナーの池江泰寿調教師だ。慌ててオルフェーヴルの下へ駆け寄った。
「見ると鼻から出血をしていました」
前年のリベンジをはかった凱旋門賞への挑戦が白紙に戻されるかとショックを受けた。当然、追い切りは中止してすぐに厩舎へ戻った。そして、チェックをした。すると……。
「外傷性の鼻出血でした。かすり傷程度の軽傷である事が分かったのです」
肺からの鼻出血と違い、外傷性の場合、日本でもフランスでも出走停止処分の対象にはならない。だから、池江調教師は不幸中の幸いにひとまず安堵してそう語った。